北海道日本ハムファイターズは2006年から、「BOS(ベースボール・オペレーション・システム)」と呼ばれる情報システムを選手の獲得や育成に活用している。BOS導入後の北海道日本ハムファイターズの飛躍は目覚しい。2006年と2007年にパ・リーグ連覇。2008年は惜しくも優勝は逃したものの、クライマックスシリーズ出場を果たした。観客動員数も伸びている。2008年は187万人とリーグ2位で、前年比2.2%ながら増加した。2009年のシーズンは、「100年に一度」といわれる未曽有(みぞう)の経済危機下で開幕した。人々の生活防衛意識が高まるなか、今シーズンも観客動員数を伸ばすことができるのか。ファイターズの大社啓二オーナーに話を聞いた。
(聞き手は多田 和市=コンピュータ・ネットワーク局 編集委員、「経営とIT新潮流」編集長)

北海道日本ハムファイターズ代表取締役オーナーの大社 啓二(おおこそ ひろじ)氏
北海道日本ハムファイターズ代表取締役オーナーの大社 啓二(おおこそ ひろじ)氏
写真:柳生 貴也

世界的な景気後退で輸出産業は総崩れの様相です。この景気悪化は、日本ハムのような内需型の食品産業へどのような影響を及ぼすのでしょうか。さらに、北海道日本ハムファイターズの観客動員数への影響はどうでしょうか。

 経済環境は昨年の秋口から急激に悪化しましたね。日本ハムもそうですが、食品業界全体で、昨年の前半までは、原材料価格の高騰と、消費地の変化が利益圧迫要因でした。しかし、後半は急激な景気後退によって、それまで消費を支えていたエネルギーが一気に衰えました。消費エネルギーが衰退したからといって、食品は毎日食べるものですから、消費が全くなくなるわけではありません。輸出産業のように、この金融経済危機の影響をまともに受けるわけではありません。ただ、生活防衛意識の高まりによって、お客様の選択の基準は非常に厳しくなってきましたね。

安価なものを作るだけでは、お客様は離れる

 そういうなかで選択される商品は何かといったら、安心、安全で、コストパフォーマンスがよいものです。じゃあ、単価を下げて安い商品を作ろうということになりますが、やはり食品ですから、おいしくなければ選ばれません。単に安価なものを作っているだけでは、お客様はじわじわっと離れていくようになると思います。ですから今は、お客様の志向の変化に合わせて、もう1回商品を見直さなければいけない時期ですね。

 一方、北海道日本ハムファイターズはどうなのかというと、こちらは集客型のサービス産業ですから、食品のように一般のお客様にとって絶対に必要なものではありません。残念ですけれども、景気が後退し、消費者が支出を抑制しようと思ったら、真っ先に削るのは娯楽です。その娯楽の1つですから、今シーズンの観客動員数に不安はあります。

昨シーズンまでは観客動員数が順調に増えていますね。

 2008年は微増ですが伸ばしました。ファンが球場に足を運んでくれているということは、我々が提供するサービス・レベル、チームの戦い方も含めたファン・サービスに合格点をいただけたのかなと思っています。もちろん日本一になれなかった、リーグ優勝できなかったというご不満もあるでしょうし、我々もこれで納得しているわけではありません。しかし、観客動員数の増加を、球団経営の1つの成果として評価してもいいでしょう。

 では、2009年のシーズンはどうかといいますと、実はそれほど悪くないんですよ。一般向けのシーズンシート(年間予約席)の前売りは好調でした。ただ、企業が持っているシーズンシートの売れ行きは少し厳しかったですね。これは、企業の福利厚生や営業に活用するためのシートですから、我々のサービスとかゲームの価値というよりは、企業の業績などに影響を受けます。ですから我々としてはいかんともしがたい部分ですね。

ファンの方々がより買いやすいチケットにする

大社 啓二氏
大社 啓二氏

 そこで、企業向けのシーズンシートが減少する分を何で補っていくのかが球団経営であり、我々の事業活動なわけですが、方針としては、一般のファンの方々がより買いやすいチケットにしていきます。シーズンシートが減る分は、日々のゲームで一般のお客様に席を埋めていただく、そういう対応を取っていきます。

 それから、スポンサー収入の面では、当然逆風が吹いています。比較的大きなスポンサー、特にこの金融経済危機の影響を受ける業種に属する企業の出資は控えめになるでしょう。これも、我々の価値が下がったのではなく、スポンサー企業の事情ということになりますから、ある程度やむを得ないところです。

 一方で、逆に出資を増やしてくれるスポンサー企業もあります。例えば、観光などのサービス業です。当然、サービス業にとっても今の不況は逆風ですが、我々に出資することでメリットが出やすいと思います。今シーズンはそういうスポンサーを開拓していきます。

経済環境が悪く暗いニュースが多いからこそ、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)をはじめとして、野球のような明るいエンターテインメントが人々の関心を集めているように思います。ある意味ではチャンスでもあるのではないでしょうか。

 まさしくその通りですね。社会的に暗い時こそ、スポーツで皆が1つになって、スポーツから元気をもらう。これがスポーツの役割だと思いますね。

 少し話がそれますが、最近、企業スポーツがどんどん減少していますね。経営面など、いろいろな問題があるのだと思いますが、やはり何とか続けていただきたいものです。スポーツ・チームを存続させることは、その組織の中、その地域の中で必ずメリットが出せると考えています。