カルビー 代表取締役社長の中田康雄氏
カルビー 代表取締役社長の中田康雄氏
写真:後藤 究

 「100年に一度」の世界的な金融・経済危機といわれるなか、2008年のお菓子業界は総じて増益傾向にあった。しかし、2009年に入って低価格競争が激化しており、食品メーカー各社は対応を迫られている。CIO(最高情報責任者)出身の経営トップとして、IT活用による経営改革や業務改善に取り組んできたカルビーの中田康雄代表取締役社長に、大淘汰時代の商品開発・マーケティング戦略、IT(情報技術)投資の考え方などについて聞いた。
(聞き手は多田 和市=コンピュータ・ネットワーク局 編集委員、「経営とIT新潮流」編集長)

世界的な経済危機に自動車などの輸出産業は大きな打撃を受けています。カルビーのような内需型の食品メーカーへの影響はどうでしょうか。

 日本は輸出産業に支えられているところが大きいので、経済界全般は非常に厳しい状況になっていますね。電機や自動車、工作機械などの世界市場がシュリンクしたことに伴う余剰人員の問題がクローズアップされています。現実には、非正規社員を中心に雇用の削減をしているわけですが、それがマスコミに大々的に報道されて、「100年に一度の不況」と印象づけられることで、消費者の心理はかなり後ろ向きになってきましたね。明らかに、節約志向で価格に対して敏感になってきています。

お菓子業界は2008年は意外と好調だった

 そのような景況感でありながらも、お菓子業界は、2008年は意外と好調でした。お菓子メーカー全般が好調で、5%から6%の売り上げ成長となった会社が多かったですね。中には10%近く成長したところもあったくらいです。当社も例に漏れず、5%くらいの増収を実現しました。これは外食から内食へというトレンドの変化が、お菓子需要を支えたためだと考えます。

2009年もカルビーの好調は続くのでしょうか。

 いいえ。2009年になってから、少し潮目が変わってきましたね。2008年の11月に、原材料高を理由にポテトチップスの価格を平均8%値上げしました。原材料価格は2008年の7月がピークで10月以降は横ばいになりましたが、それでも2008年度の1年間を通してみると20億円くらいのコストアップになりました。2008年は若干売り上げが好調だったことと、相当の内部努力によって、20億円のコストアップ分を吸収できましたが、今後の収益改善のためには価格転嫁が必要です。

カルビー 代表取締役社長の中田康雄氏
中田康雄氏

 11月の価格改定は、お客様の抵抗感をなるべく抑えるために、主要な商品の内容量を65グラムから70グラムに増やして、それにともなって値上げさせていただくというかたちで実施しました。そのため、全国の小売店の店頭には新しい価格で受け入れていただけたのですが、特売の対象商品からは見事に外されてしまいました。12月以降、消費者の節約志向の高まりを受けて、価格訴求だけの特売が多くなっており、そういうなかで当社の商品と他社の商品を比べた時に大きな価格差がつき、対象商品に選ばれなくなってしまった。この厳しい状況が2月に入ってもまだ続いており、我慢を強いられています。

 さらに、2月以降は厳しい状況がさらに度を増してきています。小売業界が、価格訴求で需要を拡大するということを徹底的に始めているためです。イオンは、もともと安価だったプライベート・ブランド(PB)をさらに値下げしてまで需要を喚起しようとしています。当然、イトーヨーカドー(セブン&アイ・ホールディングス)も追随する。あるいは、イオンを上回るような手を打っていこうとするでしょう。また、西友も米ウォルマート・ストアーズの資本を使って価格で競争する。小売業界全体が、どこよりも安い価格で提供するという雰囲気ですね。

メーカーも価格を下げざるを得ない

 従って、メーカーもその圧力を受けて、価格を下げる協力をせざるを得ないということです。しかし、従来の商品をそのままの形で値下げしたのでは、メーカーも小売店も利益が確保できずに共倒れです。さらには、卸売業も流通業も倒れてしまいます。既に,小売店が価格に執着した影響で、流通業や卸売業の粗利は相当圧迫されていると思いますね。本来の機能をしっかり担っているにもかかわらず、利益だけがどんどん減っていく。このかたちを変える方策を打ち出さなければいけません。

価格訴求が強まるなかで,カルビーはどうやって利益を確保していきますか?

 1つの手段は、商品サイズを多様化することです。内容量を変えて様々な価格帯の商品を用意することで、価値に相応しい価格を維持する。価値の高いものを安売りするのはメーカーの自殺行為だと思いますね。

 サイズを多様化する戦略には、もう1つ狙いがあります。これまでお菓子売り場の主力はスーパーマーケットとコンビニエンスストアだったわけですが、ここにきて、ドラッグストアやディスカウントストアが加工食品を積極的に扱うようになってきました。ドラッグストアは価格訴求が強く、ディスカウントストアに負けないような品ぞろえと価格帯で販売しています。一方、ディスカウントストアも、特にポテトチップスについては、卸売店やカルビー以外のメーカーからPB提供を受けて、80円の価格帯の商品をぶつけてくるなんていうことをしています。

 これらの販売チャネルが、経済環境が悪化するなかでお菓子売り場として存在感を増してきました。当社としては拡販の好機なのですが、ドラッグストアやディスカウントストアがスーパーマーケットと同じ商品を販売していては、スーパーマーケットは販売競争のためにさらなる価格訴求をしなければいけなくなる。それはまずいということで、ドラッグストア向け、ディスカウントストア向けに、内容量と価格、パッケージを少しずつ変えて提供しています。