「世界中で3人だけのニーズにも応えたい」冨田龍起氏 ノルウェー・オペラソフトウェア コンシューマ製品事業担当上級副社長

ブラウザ専業ベンダーとして唯一存在感を示すのが、ノルウェーに本拠を置くオペラソフトウェアだ。同本社で、一般利用者向けのブラウザ事業を統括する冨田龍起氏は、もともとは「Operaブラウザ」の一般ユーザー。開発側に転じた今は、万人のニーズを満たしつつも、個々人が使いやすいブラウザという理想像を描く。非パソコン機器を含めた「クロスデバイス戦略」を採るオペラの現状とこれからについて聞いた。

(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ)


オペラソフトウェアは、主要なブラウザ・ベンダーの中で唯一といっていい専業ベンダーです。

 そうですね。オペラの事業は大きく二つあります。一つは、私が統括している全世界のコンシューマ向け製品事業です。パソコンや携帯電話用のブラウザを無償で提供し、パートナー企業と売り上げをシェアする、という事業モデルが基本です。パートナー企業には、例えば米グーグルや米ヤフー、フィンランドのノキア、米イーベイ、米アマゾンなどがあります。

 もう一つは、対企業向けの組み込み製品の開発です。Operaブラウザの技術を携帯電話キャリアや家電メーカーにライセンスしたり、各社からの要求仕様に応じた製品を開発したりしています。収益面では、対企業の組み込み製品事業が7割を占め、コンシューマ向け製品事業が3割といったところですね。

 加えて、クロスデバイス展開を明確に意識しているという点でも、唯一のベンダーだと自負しています。最近では、米アップルの「Safari」やグーグルの「Chrome」といったブラウザが登場してきていますが、各々の動作プラットフォームには制限があります。パソコンだけでなく、携帯電話や家電製品、ゲーム機といった様々な機器へ、横断的にブラウザを開発するのが、当社のクロスデバイス戦略です。

パートナー関係にあるグーグルは、2008年9月に独自ブラウザ「Chrome」を公開しました。競合関係にもなったわけですが、影響はありましたか。

冨田龍起氏

 実はグーグルがChromeを出してから、Operaのダウンロード数が飛躍的に伸びたんです。正確な理由はわかりませんが、Chromeがいろいろなメディアで取り上げられたことで、「ブラウザには様々な選択肢があるのだ」ということにユーザーのみなさんが気付いたのではないかと考えています。これまでは、「ブラウザとはパソコンに付いてくる青い『e』マークをクリックするものである」という認識が、ユーザーの間に作り上げられてしまっていたんではないでしょうか(笑)。

 自分のネット利用のスタイルや使い勝手に合わせて好みのブラウザを選択するという流れが、少しずつですが生まれ始めていると思います。その中でChromeがいいという人もいればFirefoxの人もいる。あるいはOperaがいいと。Internet Explorerも含めてブラウザ間で競争が激しくなることは、我々にとってすごくいい影響になっています。

 例えばグーグルがChromeを開発したことは、WebがOSに近い存在になるという流れが、現実のものになりつつあることの現れだと思います。かつてITのバトルフィールドは、WindowsやOS X、LinuxといったOSの上でした。それが今は、レイヤーが一つ上がってきています。エンタープライズ分野でもアプリケーション開発の基盤はWebへどんどん移っていますよね。アプリケーション開発基盤や提供先が、パソコンに縛られなくなっているのです。