その一方で,インターネットのユーザーにも変化が始まっている。
例えば「YouTube」や「ニコニコ動画」は急速に広がり,ユーザーの生活の一部として定着している。高速回線を必要とするサービスが使われる傾向は今後もさらに伸びていくだろう。最近では,例えばYouTubeを1日で9時間程度見ている人がいる。そういう事例を集めていくと,ユーザーの8%がISPの帯域の90%を占有していることが分かった。
こうした利用の増加に耐えられるシステム環境はもちろん,そのための投資に耐えられるよう経営基盤を強固にしていかなければならない。
携帯電話では「ダブル定額」のような料金体系が存在するので,これに近いイメージのサービスを始めないといけないだろう。実際,そういった考え方を提唱する学者が出てきている。
米国では,こうした動きは始まっている。回線の使用率によって使用料金を増減させる料金体系も,将来的には国内で導入することもあるだろうと議論している。
ただし,コンテンツ・プロバイダからISPが料金を徴収することはほとんど不可能である。彼らは提供するサービスによって様々で,コンテンツを流すために通信事業者にお金を払っている。となると,ユーザーから徴収する仕組みに行き着く。
それなら,従量制の料金体系はなぜ一般に普及しないのか。どこに難しい問題があるのか。
ユーザーは値上げに敏感だからだ。値上げをすると,別のISPに移ろうとするユーザーが続出するだろう。特に,先進的なネットユーザーほどそういう傾向が見られる。
動画を長時間視聴するユーザーのように,今まで以上に帯域が消費される時代が来る。それはISPとしては死活問題になる。今よりもいっそう厳しい時代になるだろう。
ただし帯域を絞り込むためのガイドラインが出たことは追い風ととらえている。ファイル共有ソフトの「Winny」などについては,ユーザーに後ろめたさがあって帯域を絞られても文句は言わない。しかしそうでないグレー領域のサービスで帯域を絞り込むことについては,難しい場合もある。
ISPはクレジットカード決済でユーザーの財布を握っているところが強みだった。しかし,今は米アップルの「AppStore」などその一部を脅かすサービスもある。
ほとんどのISPがショッピングやオークションを行い,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などによりサービスを拡充してきた。この流れの先にある,ユーザーから必要とされているサービスを,地道に中核のサービスを提供しつつ,模索していかなくてはならないだろう。
例えば,医師会を対象にサービス提供しているISPが存在する。セキュリティの高い通信方式で,医師会同士の連絡を円滑にするための各種サービスを提供することに特化している。
一方で日本のISPは多すぎるという指摘がある。
私はISPの数が多いこと自体は良いことだと思っている。地域密着型のサービスを提供する企業が多いことを意味しているからだ。
例えば,島根にある「いわみインターネット」は,3000人程度の会員だが,地域限定のサービスを展開して,県内の守備範囲でも経営ができている。地域密着のため,すぐにユーザーのサポートに出向くこともできる。通信事業者というよりも地域の問題解決業者のような形で地域に根付いており,子育て支援のための母親のネットワーク・コミュニティ作りなどをやっている。
地域ISPは接続サービスが売り上げの2割程度と見ている。残りの8割はSI的なサービスからの売り上げで,ホームページ制作などを行っている。地域密着ISPが抱える会員数は国内の全人口のうち数パーセントにも満たないが,確実に需要があり,地域の活性化を引っ張っている。特徴のない大手ISPよりも彼らの方が生き残れる可能性がある。
今後のISPはどのような方向性で発展していくか。
インターネット事業者らしくなるだろう。これは基本的にグローバルに透明な情報を提供するという前提で,その上に付加価値を付けていくという意味だ。
ただ,その付加価値をどう提供するかというところが難しい。そこはそれぞれのISPの経営者がきちんと考えていかなければならない問題だ。
渡辺 武経(わたなべ・たけつね)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年2月3日)