壁は越えた、前進あるのみ 数年で競合他社を周回遅れに

「IBMは絶好の位置につけた」。1月に就任した日本IBMの橋本孝之社長は意気軒昂だ。「ここ数年、構造改革で痛みを伴ったが、壁を乗り越えた今、前進するだけ」。世界のIBMが持つ技術や知見、開発力をインテグレーション(統合)して顧客に提供することができれば、「数年で他社を周回遅れにできる」と断言する。

IBMの業績は堅調です。が、日本IBMは振るいません。顧客が日本IBMに不満を持っているからでは。挨拶回りをされて、いかがでしたか。

 ありがたいことに、IBMに対する期待値は、今のような経済環境だからこそ、ものすごく大きかった。「IBMは色々なソリューション(問題解決策)を持っているはず。それを使って我々に何をしてくれるのか」というお尋ねをたくさんいただきました。

 ここ数年、IBMは「GIE(Globally Integrated Enterprise)」という戦略を推し進めてきました。統合されたIBMがあって、そこに各国で使えるソリューションがアセット(資産)として蓄えてある。

 確かにここ2、3年の日本IBMは苦しかった。でも、壁を乗り越え、世界のアセットや能力を非常にスムーズに使える所まで来た。痛みと苦しみは伴ったけれども、やることはやった。負の財産はないから前に進めばいい。今はこう思っています。

実践できますか。

 先日の日経コンピュータ(1月15日号)にアセット戦略を取り上げてもらいましたが、指摘されていた通り、汎用を目指して作ったアセットをそのまま日本のお客様に当てはめられるのかというと、違います。そこに日本IBMの存在意義があって、日本市場に対し二つの役割を果たさないといけない。

 一つはグローバルの標準に基づいた、いわば工場としての部分。もう一つはお客様に対して我々の持つアセットや機能をインテグレーションして、本当の価値を創造していく部分。後者については、ビジネス改革のお手伝い、プロジェクトマネジメント、日本的アセットの作り込み、といった点をもっと強化しないといけません。

方針が明確になったとしても、経済危機の問題があります。

 見方を変えれば大変なビジネスチャンスでしょう。社員には「新聞記事をお客様からの提案依頼書のつもりで読もうじゃないか」と言っています。毎日出るニュースを読んでいるとわかりますが、お客様は皆、苦労されている。しかし、誤解を恐れず言うと、暗いニュースを見聞きしても暗くならず、むしろビジネスチャンスだと思おうと。

なんだか、お元気ですね。

 だって無茶苦茶面白いから(笑)。本当に楽しいです、この時期は。過去の歴史を見ても、世の中が変化するときにIBMはビジネスを伸ばしてきた。逆に世の中が順調なとき、バブルのときには、あまり伸びない。その理由は、不遜かもしれないけれど、お客様が困ったときのソリューションを我々が持っているから。解決策は全部ある、うまく揃えて持っていければ、ライバル他社を周回遅れにするぐらいのことを、ここ数年でやれると信じています。

 そのために、GIEを前提に、新しいビジネスモデルに我々自身を変革する。社員がもっと協力して、この経済環境のなかで、どう価値を創りだせるのか、知恵を使わないといけない。

 大きく六つ言っています。コスト削減、キャッシュフロー改善、人を含めた企業資本の活用、企業買収や事業統合時の対応、リスクマネジメント、そしてお客様がご自身のお客様をうまく引き付けるための「リテンションマネジメント」です。六つはお客様が今、やらないといけないことでしょうが、CIO(最高情報責任者)と情報システム部門だけでは無理だと思います。CFO(最高財務責任者)、事業部門トップ、CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)といった方々に対して、提案ができないといけない。

 今のIBMの力で全部できているかというと、決してそうではない。ただ、方向感は明確だし、一つひとつの技術やサービスは全部ある。繰り返しますが、それらをどう統合して、お客様のビジネス価値に転換してお届けできるか。ここが最大のチャレンジです。

往年の御社の営業は「顧客の社長にフリーパスで会える」と豪語していましたが、最近はそうではありません。

 変えていきます。一つはもっともっと社員に自信を付けさせたい。自信が付けばどんどん行ける。そのための教育と、社員のインテグレーションの仕組みを変えていきます。