2005年に旧カネボウの繊維事業を買収して話題となったセーレンの川田達男代表取締役社長兼最高経営責任者は、今回の経済危機を「世界の需要構造の変わり目だ」と考える。この危機を乗り越えた時、世界の価値観や需要構造はどのように変化するのか。新しい時代の到来を見越して、同社はどのような経営改革や現場改革に取り組むのか。川田社長に話を聞いた。
(聞き手は多田 和市=コンピュータ・ネットワーク局 編集委員、「経営とIT新潮流」編集長)

セーレン 代表取締役社長兼最高経営責任者の川田達男氏
セーレン 代表取締役社長兼最高経営責任者の川田達男氏
写真:稲垣 純也

「100年に一度」といわれる今回の金融・経済危機をどう見ていますか。

 非常に深刻にとらえています。今回の経済危機で特徴的なのは、スピードが速くて規模が大きいことではないでしょうか。昨年9月15日に米リーマン・ブラザーズが破たんして、その後すぐに実体経済に影響が現れましたからね。株価も直角型に下がりました。

 年が明けても、回復するどころか日に日に深刻さが増してきています。例えば自動車メーカーを見ると、今年4月からある程度正常に近い形で生産をしたいという思いで、1月から3月にかけて大胆な在庫調整をやりましたよね。しかし、全然在庫調整が進んでいない。4月以降も、今の悪い状況は変わらないでしょう。

不況から恐慌へ、底がどこなのか分からない

 こうした状況がいつまで続くのか、底がどこなのか、今のところ分かりません。不況から恐慌になりそうな感じがします。自動車も電機も機械も、ほとんどの業種がほとんどの国で悪いという状況は今まで経験したことがありませんね。私はこの未曽有の危機を、これまでの繁栄の100年と、次の100年の変わり目だろうと思っています。

これまでの100年と、次の100年ではどのような変化があると考えていますか。

 危機のトンネルを抜けても、経済構造が元通りになることはまずないでしょう。元に戻らない原因は2つあります。1つは、世界の需要構造が変わったことです。今までは、約3億人の米国人が年間7兆円の貿易赤字を出しながら、世界の需要を牽引していた。次の100年では、こういう構造は無くなり、需要そのものは元通りにならないでしょう。

 それからもう1つは、世の中の価値観が変化するためです。環境保護や省エネ、省資源などがキーワードになってくるでしょう。そういう方向に世の中が変わっていきます。

100年単位の時代の変わり目において、企業がやるべきことは何でしょうか。

 まずは、徹底したコスト削減などの自己防衛をして足元の危機を乗り越えることです。事態は深刻ですので、これはできるだけスピーディーにやらなければいけません。

 それから、中期的には次の時代の需要や価値観にマッチするように、会社の方向性を変えていかなければいけません。例えば、これからの製造業においては、大量消費を前提とした大量生産は許されなくなるでしょう。人件費の安い地域で大量生産するものづくりは前の時代のものです。これからは、IT(情報技術)を徹底的に活用して不必要なものは作らない、環境に配慮して必要なものだけを作るという、いわば先進国型のものづくりへシフトしていかなければいけないと思いますね。