写真●米SAS Instituteのジム・デイビス上級副社長 兼 最高マーケテイング責任者
写真●米SAS Instituteのジム・デイビス上級副社長 兼 最高マーケテイング責任者

「過去のデータだけを分析する旧来のBI(ビジネスインテリジェンス)はもう古い。今後は将来を見据えた分析が必要だ」。米SAS Instituteのジム・デイビス上級副社長 兼 最高マーケテイング責任者はこう語る。SASは創業以来33年連続で増収増益を達成しており、今や数少なくなったBI専業ベンダーの一つだ。デイビス副社長にBI分野における技術革新について聞いた。(聞き手は吉田洋平=日経コンピュータ)

今の経済状況はSASのビジネスにどのような影響を与えているか。

 こういった経済状況は誰にとってもプラスではない。ただSASが市場にしている提案の価値は、この経済状況を受けてより高まっている。その理由は、我々がただ単にBIを売っているのではなく、「ビジネスアナリティクス」を売っているということにある。旧来のBIを使っても競合優位性はない。だがビジネスアナリティクスを利用すればビジネスに勝ち抜くことができる。

 二つの違いは、それぞれがどういった疑問に答えられるかを考えると分かりやすい。BIで分かることは、「先月何が起こったか」「何が売れなかったのか」「ここ2カ月でどんな顧客が離れていったのか」といった過去のことで、“受身の意思決定”の支援だ。一方、ビジネスアナリティクスは“先を見据えた意思決定”を支援するためのもの。「今後2カ月でどういった顧客が離反しやすいか」「いま業務のこの点を改善すればいくらの節約になるのか」といったことを分析できる。

 提供の仕方も異なる。従来のBIを利用する場合はまずツールを買って、どのようなデータを分析するべきかを考える、といった具合だった。SASが提供するビジネスアナリティクスは、ある課題を解決するためのソリューションだ。

 過去のデータだけを分析するBIはもう古くなっている。ただ言っておかなくてはならないのは、過去のデータの分析が今後必要なくなるわけではないということだ。旧来のBIはビジネスアナリティクスにおいて一つの構成要素として残っていく。

ビジネスアナリティクスを使って現在の状況にうまく対応している企業はあるか。

 600店舗以上を展開しているオーストラリアの小売り大手コールス・グループはSASを「いつ値下げをするか」という値下げ時期の最適化に利用している。これにより何百万ドルもの節減を実現した。金融サービスでは不正行為の分析にSASを使っている例がある。ある銀行ではSASを使い不正行為の1~2%を発見した。これにより何億ドルもの節減ができた。

多くのBIベンダーは「将来起こることを分析する」という方向に向かっている。それ以外には技術革新はないのか。

 そんなことはない。それ以外にも多くの技術革新が起こっている。一つ例を挙げると、非構造化データの活用がある。テキスト、ビデオ、声などの非構造化データを予測に使うという動きだ。

 あるベンダーでは顧客からの「ここが壊れたから直してほしい」といった保証請求の内容を分析している。これにより、今後どういった部品の不具合が発生しやすいのかといったことが分析できる。また、あるコールセンターでは顧客の声を分析している。声の調子が突然変わったことなどを発見し、「この顧客には対応を変えなくてはいけない」といった判断に生かしている。

専業のBIベンダーが数少なくなったことについてはどう見ているか。

 市場全体にとっては良いことだ。現在は大手ベンダーと小規模なベンダーの両方が存在しているため、互いに競い合って多くのイノベーションが起きている。仮に完全に大手数社だけがツールを提供する状況になってしまったら、イノベーションは起きにくくなるだろう。