ブロードバンド先進国と言われる日本だが,ブロードバンド化の波が及ばず,デジタル・デバイドの向こう側に取り残されている地域も少なくない。総務省の調査では,まだ約86万世帯が非ブロードバンド化の状態にある。そのような状況のなか,むしろデジタル・デバイド地域のブロードバンド事業に目を付けたのが,関西ブロードバンドである。同社代表取締役社長の三須久氏に話を聞いた。
そもそもの創業のきっかけは何か。
当社は,日本全国のブロードバンド化をやり遂げるために生まれた会社だと認識している。国がブロードバンド・ゼロ地域を解消しデジタル・デバイドを埋めるのに2010年をターゲットとしたが,実際はほとんど進んでいない。
当社はもともと,関西においてNTTなどの大手事業者が及ばない地域でブロードバンド整備を目指してきた。こうした地域はユーザー数が少ないため収益が上がらず,ブロードバンド整備がなおざりになってきた。そうした世帯数は今でも約86万世帯もあり,まさに「ブロードバンド難民」という状況になっている。
当社は,まず兵庫県で事業を展開し,「兵庫モデル」を作った。そのノウハウを関西,そして全国に展開している。こうしたノウハウには,大手事業者が気付かない視点がある。自治体や国の補助制度や他社との連携などをうまく利用し,「さすがベンチャーだ」という評価もいただいている。
なぜ兵庫からスタートしたのか。
一つには,「兵庫情報ハイウェイ」の潤沢な帯域を無料で利用できたことがある。1988年ごろに日本全国で情報ハイウエイ・ブームが起こった。その一つが兵庫情報ハイウェイである。その幹線の帯域は1.8Gビット/秒,アクセス・ポイント数は28カ所もあり,当時としては画期的だった(図1)。
さらに兵庫県は,県の利益に供するなら,1.8Gビット/秒の帯域のうち,1.2Gビット/秒を無料で民間に開放するという政策を掲げた。さらに,へき地に設備を打つなら,補助金制度も設けるという進んだ考えを持っていた。我々は,その帯域貸し出しの認定第1号だった。開放の開始が2002年4月だったので,それに合わせて我々の事業もスタートした。
もう一つ,NTTの収容局が多く,さらにダークファイバが豊富に利用できたということも兵庫県で事業を展開するうえでのメリットだった。兵庫県には収容局が254カ所もある。これは北海道に次いで多い。当社は,これらの収容局にADSLの集合モデムを置き,周辺のユーザーを収容する。
それらの集合モデムは,NTTから借り受けたダークファイバを使って,兵庫情報ハイウェイの無料の帯域で構築したバックボーンにつなぎこむ。そして,神戸にある当社のセンターまでトラフィックを運ぶという仕組みになっている。
このように,我々は自身では1mも光ファイバを持たないでブロードバンド事業を実現した。このように社員10人未満のベンチャーでもこういうことができたというのは,電気通信事業自由化の成果の最たるものだと自負している。
実際にどのようなエリア展開だったのかは,この地図に示されている。まず2002年4月の段階での大手事業者のサービス・エリアがこれだ(図2)。大手の戦略としては,まず都会からエリアを広げていく。
これが1年後にどうなったかというと,このように当社のエリアが田舎のところで増えている(図3)。これは当社が田舎を中心に開局していったからだ。こういうところではNTTは開局しない。NTTのような大手は都会から田舎へという流れだが,当社はその逆で,田舎から都会へという流れでエリアを展開する。
料金面でも,大手事業者のように日本全国一律という料金設定ではなく,地域ごとに臨機応変に設定する料金体系を採用した。まずユーザーが100人集まれば,1ユーザー当たり月額3480円ですぐに開局する。さらに,200人加入したら全員500円値下げする。100人もユーザーが集まらないところでは,自治体に補助金を出してもらう条件で,ユーザー50人で開局するプランも設けている。この場合,料金は月額2980円に設定している。
逆に言うと,最初に事業モデルを考え,その条件に合うところが兵庫県だったということか。
その通りだ。
このように兵庫県で培ったノウハウを使って,ブロードバンド事業を全国に展開していったのか。
そうだ。ただ残念なことに,当初は兵庫県から関西へと事業を広げるに当たり,兵庫県と同じように帯域の無料利用を要望していたが,それが認められなかった。現在は,ソフトバンクBBから通信回線を借り受けたりして,全国展開を進めている。
さらに全国展開を始めるに当たり,2008年に電気通信基盤充実臨時措置法(基盤法)の認定を受けた。これは電気通信のインフラ整備を推進する制度で,利子の助成を受けられるものだ。また我々は,資金確保のためにそれまで買収したISP事業をすべて売却した。創業当初からアクセス事業とセットでISP事業も手がけていたし,さらに関西地域に事業を広げる際には,いくつかの地域ISPも買収していた。今後は,ブロードバンド・アクセス事業に特化して全国展開していく。
具体的に全国展開はどのように進めているのか。
最初に説明したように,日本全国の非ブロードバンド地域が減っていない。こうしたところを積極的に手がけるのは今後も我々だけではないだろうか。ただし,未開拓の市場という観点からいうと,過疎地域のブロードバンド化はこれからの事業だ。むしろ都会を中心としたCATVやFTTHは“斜陽産業”と言えるかもしれない。
関西や九州の多くの自治体から「いっぺん提案してくれ」,「説明会を開いてくれ」という要望を受け,実際に開局の準備を進めている。さらには,福島や山形といった東北の自治体でも開局を予定している(図4)。
全国の中でも特にブロードバンドの整備が進んでいない地域が鹿児島だ。そこで我々は鹿児島に支店を置き,鹿児島での事業展開を強化する。ただ,鹿児島には離島が多く,ブロードバンド化は困難を極める。そこで,衛星を利用することを提案している。
現在,米BBSATとタイのタイコムという会社が日本での衛星ブロードバンドを予定しており,こうしたところとも提携したい。こうした衛星ブロードバンドをデジタル・デバイド対象地域で提供する場合,補助金が付くという制度が現在検討されており,3月中には決まる見通しだ。補助金は全額出るわけではないが,「過疎債や辺地債などを組み合わせれば実質0になる」といったノウハウを当社は提供できる。