米Hewlett-Packardは,データセンターの運用を自動化する基盤ソフト群「Business Service Automation」(2007年に買収した米Opsware製品群)をラインアップし,仮想化によって生じる複雑性の解決に取り組んでいる。中核ソフトのOperations Orchestrationは,システムの稼働状況監視ソフトやサービス・デスクなど各種の運用管理ソフトと連携し,障害の検知と復旧などシステム運用にともなう各種のワークフローを自動化する。このほか,サーバー機の変更管理プロセスを自動化するソフトやネットワーク機器の設定管理ソフトなどで構成する。ITproは,来日中のBSA責任者に,運用管理における自動化の意義を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


米Hewlett-PackardのHP Software & SolutionsでBusiness Service Automation関連のDirectorを務めるMichel Feaster氏
米Hewlett-PackardのHP Software & SolutionsでBusiness Service Automation関連のDirectorを務めるMichel Feaster氏
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現在のITが抱える問題は何か。解決策はあるか。

 業務とITのギャップが問題だ。この問題の解決には,ITリソースの構成/変更管理など,運用管理のオートメーション(自動化)が必要だ。

 この10年間,ITは大きく変化してきた。アーキテクチャの上では,クライアント/サーバー型システムから3階層システムへ,そしてSOA(サービス指向アーキテクチャ)へと推移してきた。各種の仮想化技術も使われるようになった。携帯電話からオンライン・バンキングが可能になるなど,できることも増えてきた。こうして,アプリケーションの利用環境は,複雑性を増していった。

 ITが複雑性を増す一方で,業務がITに求める要求は高いままだ。99.999%の可用性,停止時間ゼロのメンテナンス,100%のセキュリティ,SOX法やPCIガイドライン,HIPAA法などのコンプライアンス対応,といった具合だ。ITの複雑性のため,こうした要求を達成することが難しくなっている。

 業務とITは,ギャップが大きい。新しいアプリケーション機能を実現しようとしても,IT側の対応スピードが業務に追い付かない。例えば,一般的なユーザー企業では,ハードウエアの運用管理コストは,そのハードウエアの価格の10倍かかっている。このように,ITコストの70%はIT機器のメンテナンスやAudit(監査)機能などにかけられており,業務のイノベーションには予算を使えていない。

仮想化による複雑性の増加は大きいものなのか。

 仮想化は,CapEx(Capital Expense,設備資本コスト)を下げるが,OpEx(Operating Expense,運用管理コスト)を上げる。

 仮想化のよく知られたメリットは,ITリソースの利用率を高められることだ。例えば,仮想化以前のユーザー企業では,ハードウエア資源の10%しか実際には使っていない。仮想化によって,この利用率が上がる。これにより,電力消費も削減できる。一方で,仮想化のデメリットは,仮想資源と物理リソースの構成のマッピングが複雑になることだ。

 現在の仮想化の世界はベスト・プラクティスが欠けており,効果的な管理ができていない。例えば,サーバー部隊とネットワーク部隊とストレージ部隊に分かれているなど,サイロ型で縦割りの管理が行われている。それぞれのIT機器のための局所的な管理となっており,仮想サーバーのプロビジョニングのためのストレージ要件をどうするかなど,相互のやり取りがうまくいっていない。

仮想化製品向けの運用管理ソフトでは不十分ということか。

 仮想化によって増えてしまうOpExを下げることができるのは,物理資源の運用管理ツールで歴史のある伝統的なベンダーである。まず,IT視点ではなく業務視点でITリソースを捉えられることが重要だ。縦割りではなく,サービスをエンド・ツー・エンドで管理できることも必要だ。また,物理リソースと仮想リソースを同一のツールで管理できなければならないし,多くのハードウエア/OSが混在するヘトロジニアスな環境で利用できなければならない。

 ある銀行のユーザー事例では,仮想サーバーのプロビジョニングに2.5時間をかけていたが,HP SoftwareのBSA(Business Service Automation)製品群を適用すると,5分以内で終了できるようになった。実に95%の改善となった。

IT投資のROIを向上させたユーザー事例をいくつか教えてほしい。

 (1)韓国の重工業では,ERPのストレージ管理者を2人から1人に減らし,別の仕事に割り当てることができた。50%の改善となる。(2)オーストラリアの教育機関では,1人が管理するクライアントPCの台数を300台から700台に増やした。57%の改善となる。(3)日本の造船業では,ワークフローにかかる時間を2~3時間から数秒へと短縮し,1年あたり500万ドルを節約した。