[前編]Windows MobileとAndroidに集中,日本の特殊性の是非は見方による

2006年にNTTドコモへWindows Mobile搭載の「hTc Z」を納入以来,スマートフォン・メーカーとして存在感を高める台湾HTC。国内4携帯電話事業者へ端末を供給する。2008年には初のAndroid端末「T-Mobile G1」を米国で発売した。HTCの日本市場への考えや今後の計画を日本法人のデビッド・コウ代表取締役社長に聞いた。

日本での事業を拡大している。日本市場をどう見ているか。

 今はまだ市場を学習している段階だ。日本の消費者がどのような端末を求めているのか,通信事業者とどうやったらうまくビジネスができるのか,どのような方法が通信事業者にとって有益なのかを学んでいる途中だ。

 着実なアプローチを続けており,そういう形で過去2,3年間はとても成功した。私たちが提供する端末は通信事業者とユーザーの双方に気に入ってもらえていると思う。

 現在,日本市場に12モデルを投入している。今この段階でも私たちは日本の消費者がどのようなものが好きなのかを一生懸命探っている。

海外市場と比べて日本の携帯電話市場は特殊だと言われる。そうした指摘を実際に感じているか。

デビッド・コウ氏
写真:丸毛 透

 日本では通信事業者ごとにカスタマイズした携帯電話が当たり前になっているし,ユーザーもそのような形に慣れている。NTTドコモならiモード,ソフトバンクモバイルならYahoo!ケータイといった具合だ。しかもこれらは互いに共有できる部分が全くない。このような環境は日本特有で,世界中ほかのどの市場を見ても日本ほど大規模なカスタマイズが行われている例はないだろう。

 それが良いか悪いかは見方による。日本市場が現在のような形で発展してきたことには,言語や文化の違いといった背景がある。現在,日本のユーザーは提供されているサービスや携帯電話の機能に非常に満足していると思う。この点からは特殊性は良いことだと言える。

 一方でメーカーにかかるコストは大きい。日本の携帯電話メーカーは研究開発に多大な投資をしているが,日本の中でしか端末を売れないので,おのずと販売できる数量は限られる。この点では若干不利だろう。

 逆に海外の端末をそのまま日本に持ち込んでもうまくいかない。HTCはコストをかけて端末に多くのカスタマイズを施している。これは,日本市場が非常に大切だということと,通信事業者とのパートナシップの重要性を深く認識しているからだ。

 カスタマイズとは例えば,ドコモだとmoperaメール,ソフトバンクならS!メールへの対応である。絵文字も各通信事業者で全然違うものを提供している。これらカスタマイズによってユーザーにマッチした端末を出し,シェアを高めたい。

携帯電話のオープン・プラットフォームが話題を集めている。HTCのOSやプラットフォーム戦略を教えて欲しい。

 過去10年にわたって,HTCはWindows Mobile端末を集中的に開発し,成功を収めた。最近はAndroidにも取り組んでいる。AndroidはWindows Mobileと補完的な関係にある。それぞれにユニークな点があり,うまく補い合う形だ。

 Symbianも良いOSだが,今のところWindows MobileとAndroidに集中している。今後,そのどちらを重視するかは通信事業者次第になる。

 日本のオープン・プラットフォーム端末は,まだ市場規模が小さい。それでも過去3~4年の間で相当な成長を遂げてきた。これはちょうど米国やヨーロッパの初期のパターンに似ている。今後,日本でオープン・プラットフォーム端末はもっと成長を遂げると私は思っている。

HTC Nippon 代表取締役社長
デビッド・コウ氏
2004年にHTCに入社。HTCアメリカのカナダ担当ディレクターを経て,2008年6月にHTC Nippon代表取締役社長に就任。IT・通信業界で20年に及ぶ豊富な国際経験を持つ。担当した業務は製造,サービス,オペレーション,財務,販売,マーケティングと多岐にわたる。南カリフォルニア大学で電気工学修士号を取得。カリフォルニア州立工科大学ポモナ校で電気工学・コンピュータサイエンスの理学士号を取得。

 (聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年12月18日)