米Mirapoint Softwareは,メール・サーバー専用機(アプライアンス)の専業ベンダーである。1U/2Uラックマウント型PCサーバーをプラットフォームに,UNIX系OS/メール・サーバーをベースに独自開発したOS/ソフトウエア「MOS」を組み合わせ,メール・サーバーを運用するために必要な機能を提供。スプーラ用途の「Message Server」や中継専用の「RazorGate」のほか,SMTP中継経路に影響を与えずに利用可能なアーカイブ専用機「RazorSafe」をラインアップする。来日中の同社CEOとProduct Management担当Directorに,アーカイブの活用動向などについて聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


米Mirapoint SoftwareでCEOを務めるJeff Witous氏(写真左)と,同社でProduct Management担当Directorを務めるJenko Hwong氏(写真右)
米Mirapoint SoftwareでCEOを務めるJeff Witous氏(写真左)と,同社でProduct Management担当Directorを務めるJenko Hwong氏(写真右)
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悪化する経済状況下にあってMirapoint製品の強みは何か。

Jeff Witous氏 他社製品よりもTCO(Total Cost of Ownership)を低く抑えることができる点だ。具体的には,メール・ボックスあたりの3年間のTCOは,Mirapointの場合で170.33ドルである。これに対して,例えばLotus Notesでは846.30ドル,Microsoft Exchange Serverでは692.40ドルとなる。つまり,NotesやExchangeからMirapointに変えるだけで,TCOが4分の1~5分の1に減るというわけだ。TCOの違いは,昨今の経済状況下においては特に重要だ。

 運用管理コストの低さやソフトウエア・ライセンス部分の安さも特筆すべき点だが,もっとも重要なポイントは,TCOの大部分を占めるハードウエア費用を少なく抑えられる点である。3年間のハードウエア費用は,Mirapointが105.49ドル,Notesが554.28ドル,Exchangeが460.89ドルとなる。これはつまり,PCサーバーの台数が少なくて済む(1台でハンドリング可能なメール・ボックスの数が多い)ということだ。

ハードウエア費用がTCOの大部分を占めるということは,フリー・ソフトウエア/オープンソースと比べてもTCOが低いということか。

Jeff Witous氏 その通りだ。PCサーバー1台あたりの性能を高くできるのは,メール・サーバー専用アプライアンスとして機能を作り込んでいるからだ。専用のソフトウエアを使っているため,NotesやExchangeや各種オープンソースのように汎用OSとソフトウエアを組み合わせたメール・サーバーよりも性能が高い。こうしたソフトウエアの作り込みやチューニングのノウハウのために,Mirapointでは過去10年にわたって累計で2億ドルの研究開発投資をしてきた。

 Mirapointの出資会社の1社は,元米Sun MicrosystemsのBill Joy(ビル・ジョイ)氏やAndreas Bechtolsheim(アンディ・ベクトルシャイム)氏が創立した米HighBAR Venturesである。こうした経緯から,Mirapointは,Bill Joy氏が手がけたCalifornia大学Berkeley校版UNIX「BSD」と関係が深く,初期のアプライアンスではx86版のBSDとSendmailをベースにソフトウエアを開発していた(現行版のソフトウエア「MOS4.x」からはLinuxベースとなっている)。独自のソース・コードの作り込みやチューニングを施しているため,世の中で手に入る汎用のLinuxを用いても,Mirapointと同等の性能を出すことはできない。

 実際に,オープンソースからMirapointにリプレースする事例も多い。ユーザー数の増加やアクセスの増加など,メール・サーバーにこれまで以上の負荷がかかるようになったケースにおいて顕著だ。こうした事例では,オープンソースのままユーザー数の増加に対処しようとすると,サーバー機の増強が必要になり,多大なハードウエア費用が発生してしまう。ここでMirapointにリプレースすると,少ないサーバー台数でカバーできるため,TCOが下がるというわけだ。

新モデルの投入などアーカイブ専用機「RazorSafe」に注力している理由は何か。

Jeff Witous氏 メールのアーカイブには大きな需要がある。Mirapointのメール・アプライアンスを導入している企業2000社のうち25%の企業がアーカイブ・アプライアンスのRazorSafeを購入している。さらに,Mirapointのメール・サーバーを導入しておらずにNotesやExchangeなどを利用している企業であっても,MirapointのRazorSafeを買っている。

Jenko Hwong氏 Mirapointのビジョンのゴールの1つは,ユーザー企業のTCO削減にある。ここで,重要なポイントがある。メールのアーカイブは,アーカイブしない状態と比べて,企業の運営コストを大きく削減できるということだ。さらに,アーカイブ製品の機能や性能の高さも,重要なポイントだ。

 従来,IT管理者は,1日のうち2時間ほどの人件費を,エンドユーザーのメール復旧のために費やしていた。過去のメールを消してしまったので復活させてほしいというエンドユーザーの要望に応えるため,過去のメールを記録したテープの中から,該当するメールを探し出して抽出する作業である。また,そもそもアーカイブを取っていなかった場合には,探すことさえできない。

 ここで,メールのアーカイブを,すぐに検索可能な状態にしておけば,過去のメールを探し出すことが容易になる。しかも,IT管理者ではなく,過去のメールを閲覧したいエンドユーザー自らがWebインタフェースを操作してメールを検索/閲覧すれば,IT管理者は何もしなくてよい。アーカイブからのメール検索/抽出を,セルフサービス化できる,というわけだ。

エンドユーザーがアーカイブを活用するのか。アーカイブの用途が変わってきているのか。

Jenko Hwong氏 その通りだ。アーカイブと言うと,これまでは,コンプライアンス(法令順守)や内部統制,あるいは訴訟時の証拠を検索するためのe-Discovery(電子情報開示)といった,セキュリティ用途のイメージが強かった。会社の利益向上に直結する要素は少なかった。これが,最近では現場のエンドユーザーがカジュアルに情報を活用するためのツールになってきている。

 例えば,営業担当者は,メールを使って価格交渉を行っている。「1000ドルでどうでしょうか」,「900ドルになりませんか」,「では900ドルで手を打ちましょう」,といった価格交渉の事例がメールに残されている。これを検索/閲覧できるようになるだけで,業務の効率/生産性が上がり,会社の利益に直結する。

 e-Discovery(電子情報開示)に着目してみても,もちろん訴訟時における検索速度の高さが重要であることは明らかだが,訴訟だけが活躍の場というわけではなく,応用範囲が広がってきている。例えば,ある市役所では,住民からの情報開示請求に応えるためにアーカイブの検索機能を利用している。以前は2年間かけて開示請求の全作業を終えていたが,RazorSafeを導入してからは同じ作業が2~4日で片付くようになった。

アーカイブ向けの新機能のトピックは何か。

Jenko Hwong氏 RazorSafeの新版では,自動タグ付け機能を追加した。あらかじめ設定した条件に合致したメールに自動的にタグを付け,検索性などを高める機能である。様々な条件を設定可能で,例えば,特定の従業員からの,特定の単語を含んだメールや,ある2つの単語が5単語/文節以内に同時に出てくるメールなど,重要なものを区別して管理しておくことができる。

 アーカイブ用途のRazorSafeでは,複数の条件/タグを運用できるものの,タグ付け条件セットは1つだけであり,タグ付け権限を共有する者だけがルールを定義できる。一方,タグ付け機能はMirapointにとって重要な機能の1つであり,今後は全製品に展開していく。この上で,Mirapointの他のメール・サーバー製品においては,個々のユーザーが個々のユーザー専用のタグを運用できるようにするつもりだ。