[前編]経路設計をプログラムで半自動化,月20万円弱のイーサ専用線を提供

VPNソフト「PacketiX VPN」を約3000ユーザーに提供するソフトイーサが,2008年末に「HardEther」と呼ぶイーサネット専用線サービスを開始した。エリアは首都圏で,サポートは原則平日に限定。他の通信事業者から光ファイバを借りてサービスを展開している。ソフト開発から通信サービス事業に参入した狙いや,これからのサービス展開の考え方を,登会長に聞いた。

HardEtherの反響と手応えは。

 HardEtherは12月1日に提供を始めた。Webページで製品説明と見積もり取得ができるが,その件数は約500件ぐらいになった。具体的な事前調査とその打ち合わせを進めているものが約10件。光ファイバ調達中のものが4件ぐらい。開通したのは2件だ。

 HardEtherでは2009年で50~200件という目標を設定している。200件はともかく50件はいけると読んでいる。

通信サービスを提供するようになって,物理的な作業が増えたのでは。

 物理的な作業は,思ったよりは複雑ではない。HardEtherのスタンダードタイプとエンタープライズタイプには,監視,バックアップを付けているが,設定や通信テストはすべて当社のセンターから遠隔でできるようにした。工事会社に線をつないでもらえば,あとはこちらでやるという流れで,重要な部分は自動化できるようになった。

このサービスを使っているユーザーのニーズは。

 7割くらいは,中小企業やベンチャー企業が事務所とデータ・センターを接続したいというニーズだと気付いた。拠点が一つしかない会社でも,金融情報や重要な個人情報を扱うなどの理由から,サーバーのストレージをデータ・センターに置くようになっている。しかしストレージを遠隔地に置いたところ,レスポンスが悪くなった。Windowsファイル共有は,遅延が多いとログインに6分程度かかるという。HardEtherならこの問題を解決できる。

 もう一つの特徴は,ユーザーの9割が東京23区内だということ。23区の半分程度の10k~15kmくらいの距離をつなぎたい場合がほとんどだった。

サポートを24時間365日しないのは,大胆な割り切りに見える。

登 大遊(のぼり・だいゆう)氏
写真:丸毛 透

 このサービスを始めたのは,インターネットVPNを使うユーザーから,もう少し高速なサービスが欲しいと要望があったから。このためインターネットVPNよりもサービス・レベルが上であれば良いという発想があった。

 大手通信事業者が提供する既存のサービスを真似しても意味がないと考えた。大量データのやり取りには広域イーサネットが必要だが,月額50万円はとても支払えない。そういったベンチャーや中小企業が使えるコストの低いサービスを自分たちで作ろうと考えた。

 ただ,物理レイヤーがベストエフォートではどうしようもなかった。コストを下げるには,複数の通信事業者から安価な光ファイバを借りるしかないと考えた。

 料金は月額20万円未満を目標とし,その代わりサービス・レベルを下げて土日,祝日はサポートしなくても,料金を安くした方が良いと判断した。

光ファイバでのアクセスを用意する際に難しい問題を感じたことはないか。

 我々のコンピュータでデータベースを組んで,複数の通信事業者の回線をプログラムで検索できるようにした。ある区間のファイバが調達できない場合,迂回経路を見つけて設計する業務を半自動的にやっている。プログラムの準備には1年くらいかかった。

 これまでの企業向けサービスは,毎回スタッフが手作業で設計するため,時間がかかる場合が多かった。それがプログラムでは一瞬で終わる。

 ただし光が届くはずなのに実際には届かないとか,経験を積まないと分からないこともある。このためプログラムを作るときには1.5~2倍ぐらい余裕を持たせて,例えば通信装置が使えるかどうかを見極めるようにしている。

 その分,無駄もある。一部の光装置には高価なものを使っている。

 こうした取り組みで,早くて半月から1カ月,遅くても2~3カ月で開通を目指している。

条件設定のための情報は,どう収集したのか。

 設定条件は経験を積むしかなかった。ファイバが物理的にどうなっていて,どういう性質があるのか。中継網だけでなくアクセス網はどうなっているかを研究した。建設中の建物やビルにファイバが敷かれたときに,現地を何回も見に行った。

 大学にはとう道があり,その中にNTTやKDDIのファイバが張ってある。それをたどっていくと,その構造が簡単に分かる。通信事業者が研修でするような研究を繰り返して,ここではロスが出るとか,ここは手間が掛かるなどを理解した。

ソフトイーサ 代表取締役 会長
登 大遊(のぼり・だいゆう)氏
1984年11月生まれ。兵庫県尼崎市出身。高校在学中に日本初となるFOMA用メモリー編集ソフト「PLUS for FOMA」を開発。2003年4月に筑波大学第三学群情報学類入学。同年,情報処理推進機構(IPA)の2003年度未踏ソフトウェア創造事業未踏ユース部門の採択を受け,VPNソフト「SoftEther」の開発に着手。同大学に在籍のままソフトイーサを設立した。同社で「PacketiX VPN」の開発を統括し,2005年末に製品化。2006年に代表取締役会長に就任。2007年から光ファイバを用いた通信に関する実験・研究に着手。2008年12月に「HardEther」の提供を始め,同サービスの統括を担当。趣味はプログラミング,読書,映画鑑賞。ロボットスーツで有名なCYBERDYNE(サイバーダイン)情報通信担当顧問を兼務。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年1月19日)