NTT東西のNGN(次世代ネットワーク)とインターネット接続事業者(ISP)のサービスの両方でIPv6アドレスを利用すると正常に通信できなくなる「IPv6マルチプレフィックス問題」。日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)とNTT東西はこの問題を解決するため,「トンネル方式---ISPで終端」(案1),「トンネル方式---NGNで終端」(案2),「ネイティブ方式」(案3)の三つの対処法を検討してきた(関連記事)。

 だが,総務省が2月16日に開催したインターネット政策懇談会では,上記3案に加え,案3のネイティブ方式をベースにした「NGNと代表ISP3社を接続し,他のISPは代表ISP網経由でIPv6インターネット接続を提供」という案4も別途検討されていることが判明した(関連記事)。NECビッグローブ 代表取締役執行役員社長の飯塚久夫氏に,同社の見解を聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


IPv6マルチプレフィックス問題の一連の議論をどう見ているか。

NECビッグローブ 代表取締役執行役員社長 飯塚久夫氏
NECビッグローブ 代表取締役執行役員社長 飯塚久夫氏
[画像のクリックで拡大表示]

 当たり前のことだが,IPv6マルチプレフィックス問題の対処法を考える上で最も重要なのはユーザー視点。IPv4アドレスの枯渇でユーザーがインターネット接続サービスを満足に利用できない,あるいは新規に申し込めないといった事態は絶対に避けなければならない。そんなことが起これば,政府やキャリア(大手通信事業者)を含め,「一体何をやっていたんだ」という話になる。

 一方,ISPの立場からすると,ユーザーあってこその事業ではあるが,ビジネスとして成り立たなければそもそもサービスを提供できなくなってしまう。今後も健全な経営を持続できることが大前提になる。

 JAIPAとNTT東西との間で案2を中心に検討してきたわけだが,どうしてもコストの問題が生じる。語弊はあるかもしれないが,NTT東西からすれば(案2の導入コストを)ISPが自分で吸収しようがユーザーに転嫁しようが知ったことではない。NTTグループ全体はともかく,NGNの主幹であるNTT東西は財務状況に決して余裕があるわけではなく,背に腹は代えられない。一方,JAIPAからすれば,(IPv6マルチプレフィックス問題が生じるのは)NGNの作りに影響しているので,NTT東西も利害関係者だから相応の負担をして然るべきという主張になる。分かりやすく言えばこうなる。

 両者の言い分に一理あり,これでは議論が先に進まない。皆が発想を変え,「日本のISP産業は将来どうあるべきか」「世界の動向に照らし合わせて日本のインターネットはどう発展していくべきか」といった,もっと大局的な観点で考えるべきだ。

具体的にはどうなる。

 大局的な観点に立つと,NECビッグローブとしては案4が望ましいと考えている。ただ,案4の「代表ISP」は,誤解を招いているように見受けられる。

 今回,ひかり電話の品質への影響などの理由により,代表ISPは3社となった。この代表ISPは文字通りの「ISP」ではなく,あくまで「ゲートウエイ機能を提供する組織」が3社ということ。「ゲートウエイ機能を握った3社による寡占や独占」といったイメージがあるようだが,決してそういう話ではないと思う。

 多くのISPが共同してゲートウエイ機能を提供する会社を新たに設立する,またはLLC(合同会社)やLLP(有限責任事業組合),コンソーシアムを作るのでも良いかもしれない。ゲートウエイ機能を提供する組織は3社だが,それを利用するISPが三つのグループに分かれると考えるべきだろう。

案4を提案したのはNECビッグローブなのか。

 具体的な提案を出したのは当社ではない。ただ,案1~案3のいずれも決して良い案ではないと考えていた。案1と案2のトンネル方式は完全に望ましくないとまでは言わないが,マルチプレフィックス問題を回避するためにホーム・ゲートウエイ(HGW)の改変が必要になる。ユーザーの宅内に入ってHGWを置き換えなければならず,結果として全体のコストが高く付いてしまうのは目に見えている。ユーザーの設備を変更することは本当に大変だということをよく認識する必要がある。

 本来のインターネットの考え方からすると,マルチプレフィックス問題がそもそも生じない案3のネイティブ方式が望ましいが,ビジネス面で問題がある。案3では(NGNからインターネットに直接接続するので)ISPの中抜きが起こって我々の生きる道が閉ざされてしまう。我々ISPは10年以上にわたって日本のインターネットの発展のために尽くしてきた。我々が健全な事業を継続できる案でなければ,到底受け入れられない。

 となれば案3と同じネイティブ方式で,コスト・ミニマムで対処できそうな案4が候補になる。我々の立場は基本的にJAIPAと同じで,(移行コストが)安いに越したことはない。案2のコスト検討を深めて安くなればそれで良いのだが,現実を考えると,なかなかそうなりそうにない。今さら「NGNの閉域網が悪い」といった議論を持ち出しても始まらないだろう。(NTT東西はNTT法で業務活動が制限されているという)歴史的な経緯でこうなった。大手通信事業者を含め,前述したような大局的なビジョンを共有しなければこの問題は落ち着かない。