日本企業は業務改善が得意だったはずなのですが、成果主義の弊害なのか個人プレーが目立ち、逆に組織の生産性が低下するケースが出ています。
日本企業は自社に対して、どんな悲惨なことをしているか気づいていますか。素晴らしいものを持っているのに自分の手で台無しにしている。
日本企業が持つ「Wa(=和)」は、非常に重要な経営の要素でした。それを欧米流の成果主義を導入することによってなくしてしまった。もちろん日本企業は欧米企業に学ぶべき点はあります。ですが、和すなわちハーモニーについては、欧米企業から学ぶべきことはない。欧米企業を模倣することによって、おかしくなっていることに気づくべきです。
コストの削減についても言えます。単に削減を訴えることは「和」を台無しにする。和があれば、劇的に改善できる。「和」は絶対に必要なのです。今の経済不況から抜け出すカギになるでしょう。それと付随して「コミュニケーション」が重要になります。
1983年に『ザ・ゴール』で提唱した「制約条件の理論」は、コミュニケーションの改善にも有効なのですか。
役立ちますよ、もちろん。『ザ・ゴール』は生産管理がテーマだったので、工場のなかで制約となっているボトルネックの改善を取り上げました。
今はコミュニケーションが企業全体を見わたしたときのボトルネックになっています。経営層から現場まで、そして組織間の横串でも、コミュニケーションが問題です。
加えて、社外を含めたサプライチェ ーン全体のコミュニケーションも考えなければなりません。企業が変わるためには、自社だけではなくサプライチェーン全体で見ていく必要がある。ボトルネックを改善するためには、マネジメントが見る領域を適切にすべきです。広すぎてはいけません。制約をどのようにマネジメントしていくか、一つの制約がほかの制約とどのように関係しているかを考えます。TOCは基本的に変わっていません。
大野耐一氏の理論がゴールの基礎
2001年、『ザ・ゴール』の日本語版を出版し、初めて日本に来ました。その際「日本の製造業は、世界に追いつかれた」と言いましたが、実は当時、日本企業は世界の製造業に対してまだリードしていたと思います。ですが、今はリードの幅がゼロになったのではないでしょうか。
『ザ・ゴール』の日本語版出版を20年近く許可しなかったのは、日本が嫌いだからではありません。むしろ逆で、トヨタ生産方式の基礎を築き、トヨタ自動車の副社長を務めた故・大野耐一氏の理論が、私の考え方の基礎です。
もう一度言います。日本企業は「和」という良いものを持っている。日本企業は和を持っているからこそ、この不況から抜け出すことができるはずです。私は今回、不況を乗り切るために米国やインド、ラテンアメリカなど世界各国でセミナーを開催しています。その最初の地に日本を選びました。日本の製造業は再び競争力を取り戻せるし、先頭を切って不況から脱せると考えています。
エリヤフ・ゴールドラット氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集部長)