[前編]コスト削減一辺倒は危険 ITを正しく使えば収益力を高められる

「コンピュータには柔軟性がある。コスト削減に寄与する一方で、莫大な利益を生み出せる」。TOC(制約条件の理論)を解説した小説『ザ・ゴール』を世界で1000万部以上売ったエリヤフ・ゴールドラット氏は、IT投資についてこう語る。かつてない不況の今、「日本企業は最大の長所である『Wa(=和)』の重要性を再認識すべきだ」と同氏は主張する。

「100年に1度」と言われるほど経済環境が悪化しています。

 信用の危機が実体経済や財政の危機につながっています。これは非常に恐い状態です。私はパニックだと思っている。信用の危機はすでに終わっているにもかかわらず、パニックによって我々自身が不況に陥っているのです。

 25年ほど前に書いた『ザ・ゴール』で私は、企業が3カ月で変われるという事例を示しました。制約条件の理論(Theory Of Constraints=TOC)に基づいて、企業は短期間で変わることができるのです。しかし「企業を改善するには長い時間がかかる」という間違った印象を持っている人は、いまだに多い。この考え方を是正していかなければならないと思います。

それが、最新刊の『ザ・チョイス』で訴えたかったことなのでしょうか。

 ザ・チョイスでは、すでに明らかなことを、明らかにしていくプロセスを説明しています。思考方法を解説した本です。「いかに明らかにして、当たり前と思うか」ということです。編集者には哲学書と説明しました。読んでいただくと「常識しか書いていない」と思うかもしれません。でも今まで、誰も気がつかずに実践しなかったことを解説しています。

 例を挙げましょう。ネジ回しを持っていて、それを使ってネジを取ろうとしている人がいます。ですが、その人は何らかの理由で対象はネジではなくクギだと思い込んでしまった。ネジ回しでクギは取れませんよね。道具は整っていて何も悪いことがないにもかかわらず、“対象物”が取れない。同様なことは日常でも起きています。現実認識が間違っているために、目的を達成できないのです。

 経済不況を引き起こしているパニックも常識だけで切り抜けられます。物事は実にシンプル。常識に基づいて考えれば、不況下であっても収益を生み出し成長する企業になれます。

業績悪化から脱するため、企業はコスト削減を進めています。IT関連コストも例外ではありません。

 企業がコスト削減にばかり目を向けることは大きな問題です。企業経営の目的はお金をかせぐことであり、節約することではない。企業にとって最高のコスト削減方法は何かわかりますか。会社を閉めることです。そうすればコストはすぐゼロになる。