![[前編]クラウドでは我々が最先端,二度と後手は引かない](tit_interview.jpg)
スティーブ・バルマー氏は現在のクラウドコンピューティングを取り巻く状況を「1994年ごろのインターネットに似ている」と指摘する。新しいプラットフォームが台頭する熱気に包まれているというのだ。当時、マイクロソフトはインターネット対応に出遅れ、その後の戦略転換に苦しんだが、バルマー氏は「今度は我々が最先端だ」と断言する。
2008年10月の「PDC 2008」で発表した「Windows Azure」には、どのような狙いがありますか。
呼び方はソフトウエア・プラス・サービスやクラウドコンピューティング、オンデマンド、グリッドと様々ですが、新しいコンピューティングレイヤーが登場していることは、世界中が認めています。ストレージや計算能力が分散コンピューティングモデルによって提供されるという考え方です。
Windows Azureは、この新しいレイヤーのプラットフォームです。今までもパソコンのためにWindowsが、サーバーのためにWindows Serverが、携帯電話をIPと統合するWindows Mobileがあったように、我々は常にプラットフォームを提供してきた。これらと同様に、クラウドコンピューティングを実現するプラットフォームとしてWindows Azureがあります。
クラウドコンピューティングは、インターネットの登場と同じぐらいのインパクトがありますか。
イエス。しかし、インターネットがいつ登場したのか思い出してください。インターネットの最初の「波」が起きたのは1974年です。しかし爆発的に普及したのは、HTMLやWebブラウザが登場してから2~3年後のことでした。誰も1971年には、インターネットが1994~95年の姿になるとは想像していませんでした。
クラウドコンピューティングが現在、1971年のインターネットだとは思いません。それでもインターネットの可能性を確信した1999年というよりはむしろ、1994年のインターネットに状況は近いと思います。
マイクロソフトはインターネットが爆発的に普及し始めた時期に、戦略転換に出遅れました。

インターネットに関してはそうでした。しかしクラウドコンピューティングでは、我々が最先端にいると自負しています。遅れは一切ありません。
クラウドコンピューティングには、ソフトウエア・アズ・ア・サービス(SaaS)とプラットフォームという二つのレイヤーがあり、マイクロソフトはその双方でサービスを提供します。
SaaSレイヤーには我々以外に、米セールスフォース・ドットコムや,「Google Docs/Spreadsheets」を擁する米グーグルが存在し、プラットフォームレイヤーには、米アマゾン・ドット・コムがいます。
もっともアマゾンをライバルとは考えていません。アマゾンは偉大な企業ですがあくまで小売業。エンタープライズ向けのサービス・レベル・アグリーメント(SLA)のような取り組みはありません。
それではクラウドコンピューティング時代の最大のライバルは誰ですか。
おそらくグーグルや米IBMになるでしょう。米オラクルの可能性もありますが、ラリー・エリソン氏は「クラウドコンピューティングを信じていない」と公言していますね。
クラウドコンピューティングが普及する上での課題は何でしょうか。
最もわかりやすい課題は、企業のデータセンターに存在するコンピュータやデータを、クラウドにどうやって移行するかということです。
最初にクラウドに移行するのは、科学技術計算やWebサイト、セキュリティ管理機能になるでしょう。メールやコラボレーション、ファイル共有、一部の業務アプリケーションが移行するのは、その次の段階です。
ソフトウエア・プラス・サービスというコンセプトは今も変わりませんか。
チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのレイ・オジーがソフトウエア・プラス・サービス戦略を打ち出したのは3年前のことです。我々の戦略はそれ以来首尾一貫しています。
ソフトウエア・プラス・サービスとクラウドコンピューティングは同じ事を意味します。グーグルがクラウドコンピューティングを語るとき、彼らはWebブラウザだけですべてを実行することを指します。
しかし我々のクラウドコンピューティングとは、スマートデバイス(豊富な機能を備えたデバイス)がスマートサーバー(豊富な機能を備えたサーバー)と連動することであり、単にダム端末にサービスがもたらされることではありません。
ライバルとして挙げるIBMは「プライベートクラウド(企業内で運用するクラウド)」を志向しています。マイクロソフトとは方向性が異なります。
プライベートクラウドとパブリッククラウド(共用型のクラウド)は併存し、それぞれ連携するでしょう(図)。パブリッククラウドを運用するのも、マイクロソフトだけではないはずです。
しかしクラウドコンピューティングのメリットとは、スピードや俊敏性、規模であって、各企業にクラウドがあることではありません。マイクロソフトのデータセンターであれ、プライベートクラウドであれ、ソフトウエアがどこで実行されていようとも、ユーザーがそれをサービスとしていつでも利用できることが重要です。そうでなければソフトウエアをパッケージで配っているのと変わりません。
そこで重視しているのが、アプリケーションの互換性です。.NETで作ったアプリケーションが、企業内のWindows Serverでもクラウドでもどこででも実行できるようにします。
スティーブ・バルマー氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集部長)