固定通信では東京電力に続き,中部電力の光ファイバも手に入れた。今後もインフラに力を入れていく方針か。
ローカル・アクセスの部分を重視する方針はこれまでと変わらない。全国規模で展開するつもりはないが,NTTに依存しないローカル・アクセスをできるところからきちんと押さえ,NTTに競争を仕掛けていくことが重要と考えている。ある意味,KDDIの存在価値はまさにそこにある。
2008年10月に開始した「ギガ得プラン」では,北海道エリアでNTT東日本の光ファイバを借りることにした。場所に応じて展開するということか。
適材適所で取り組むことを考えている。北海道と東北のエリアは基本的に電力系の事業者が自らFTTHサービスを手がけていない。競争がなく,ユーザーはNTT東日本の一定のサービスしか利用できない。そこで,まずは北海道エリアでサービスを開始した。とはいえ,我々が自ら光ファイバを敷設するのは正直言って無理。となれば設備競争ではなく,サービス競争しかない。
FTTHの普及では苦しい状況が続く。
現状の問題は,FTTHでなければ利用できないサービスや,魅力的なサービスがないことに尽きる。ADSLで十分なのに,高い料金を払ってまでFTTHに移行するインセンティブが働かない。
その点では,日本放送協会(NHK)が2008年12月から開始した「NHKオンデマンド」のような映像配信サービスが追い風になると見ている。FTTHのキラー・コンテンツが映像系であることは間違いない。標準品質の映像であればADSLで十分かもしれないが,ハイビジョン品質となれば圧縮を考慮しても最低10Mビット/秒以上の速度が必要になる。ADSLの特性を考えると,10Mビット/秒以上の速度が出るユーザーはNTT東西の収容局の近くに限られる。となれば多くのユーザーはFTTHに移行せざるを得ない。
2009年7月から始める予定の新型WANサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch」(KDDI WVS)の狙いは。
今,企業ではネットワークの構築・運用が大きな負担となっている。WANは我々が提供しているが,LANは各企業で構築しなければならない。LANもWANと一緒にサービスとして提供してほしいというニーズが当然ある。
またデータ・センターの需要も高まっている。データ・センターを含めたネットワークを考えるとKDDI WVSの提供形態が一番望ましいと考えた。ただ,我々だけですべてを提供できるわけではないので,他社のデータ・センターもサービスの対象とした。我々の考え方はオープン。様々な業界と提携しながらサービスを展開していきたい。
NTT東西のNGN(次世代ネットワーク)はどう評価しているのか。
評価はまだ早い。むしろ,NTTとして日本の情報通信を一体どうしたいのかが見えてこないことが問題だ。
NTTは日本で最大の電気通信事業者で,他の通信事業者は彼らのインフラを使わなければサービスを提供できない。NTTは独占で我々を破滅させたいのか,それとも皆で協調して日本の情報通信を高度化していきたいのか。この点に大きな危機感を持っている。
例えばNGNに本格的に移行した際に,アクセス系は現行と同じように利用できるのか。これまではバックボーンの部分を我々が提供することで棲み分けできたし,NTTにはないサービスも提供できた。だが,NGNとの接続点がNNI(network-network interface)だけになってしまうと,我々がビジネスを継続するのは無理だと思う。
NTTのグランドスコープが見えない限り,何を議論しても枝葉末節の話にしかならない。
小野寺 正(おのでら・ただし)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年12月2日)