[前編]3.9GまではRev.Aでいく,Rev.Bは導入しない

NTT対抗の一番手であるKDDI。だが,移動通信はMNP(携帯電話の番号ポータビリティ)直後の勢いにかげりが見え始め,固定通信はFTTHサービスでNTT東西の独走を許している。この状況をどう巻き返していくのか。3.9G(第3.9世代携帯電話)やモバイルWiMAXに向けた戦略,FTTHサービスの次の一手,新型WANサービスの狙いなどを小野寺社長兼会長に聞いた。

2008年の携帯電話事業を振り返ってどう評価しているか。

 販売不振の大きな理由の一つは,他社よりも目立つ端末が少ないことにある。携帯電話の普及率がここまで高まると,ユーザーが本当に欲しい端末やサービスを提供するのが難しくなった。重要なのは,商品やサービスの開発力。ここをもう一度原点に戻って考え直す必要がある。2008年は次への飛躍のための踊り場ととらえている。

端末メーカーは販売台数の落ち込みで厳しい状況に直面している。端末メーカーとの関係に限界が来ているようにも見える。

 そんなことはない。新しい取り組みは端末メーカーと一緒でなければできない。事業者が端末メーカーとの関係を断ち切り,標準インタフェースを用意してインフラだけを提供すれば良いとはならないだろう。

 もちろん既存の垂直統合モデルですべてのユーザーの要望を満たせるわけではない。満足しないユーザーがいれば,やはり別のモデルを取り入れていく必要がある。垂直統合とオープンの両モデルがあり,両者の力関係は競争で決まる。競争の中でどちらが良いものを提供できるかに過ぎない。

 欧米の事業者の動きを見てもらいたい。彼らは日本と全く逆方向に進んでおり,垂直統合モデルで様々な取り組みを始めている。最近はメーカー・ブランドの端末よりも事業者ブランドの端末が増えている。メーカーだけで新しいことをけん引していくのは無理があり,日本型モデルが望ましいという見方が強くなっている。日本型モデルは「ガラパゴス」とよく揶揄(やゆ)されるが,逆だと思う。

総務省が2008年11月に開催した3.9Gの公開ヒアリングでは,KDDI幹部が「もはやインフラ競争の時代ではなく,サービスで差別化する時代」と発言した。インフラ競争の意欲が薄れたのか。

 そこには大きな誤解がある。あくまでユーザーの立場で見たときに「インフラは関係ない」という意味の発言だった。例えばauのCDMA2000とNTTドコモのW-CDMAの違いをユーザーが意識することはない。

 ユーザーの立場からすればインフラは何でも構わない。端末を含めたサービスが重要な要素となる。逆に我々の視点で見ると,インフラは非常に重要な要素である。良いサービスを安い料金で提供できるかどうかは当然,インフラに依存する。

3.9Gの導入は2011~2012年以降の予定だが,それまではUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXを活用するのか。

小野寺 正(おのでら・ただし)氏
写真:的野 弘路

 モバイルWiMAXと携帯電話では発展形態が違う。モバイルWiMAXは無線LANの発展系と言え,MACアドレスですべてを制御する。MACアドレスはメーカーが決めるもので,MACアドレスを持ったWiMAX端末であれば基本的に誰でも接続できる。

 これに対してLTEを含めた携帯電話は無線部分が進化するだけで,バックエンドの制御の仕組みは基本的に変わらない。語弊があるかもしれないが,電話番号で制御する。この仕組みの違いがビジネスモデルの差になる。

 もちろんモバイルWiMAXも活用するが,auの携帯電話とは違う使い方をせざるを得ない。auの携帯電話とシームレスに連携させようとすれば何らかの処理を加えなければならず,コストアップの要因になる。

3.9Gの導入まではEV-DO Rev.Aでいくのか。Rev.Bは導入しないのか。

 そうなる。Rev.Bは導入しない。

そうすると,3.9Gへの移行が遅いように感じる。

 LTEをどの周波数帯で利用するかという問題がある。2GHz帯はPHSとの干渉帯域があるので5MHz幅しか連続で利用できない。10MHz幅を連続で利用できるのは2012年に800MHz帯の再編が終わったときになる。最終的な結論は出していないが,800MHz帯の活用が現在の基本的な考え方。そうすると2012年になってしまうが,800MHz帯は既存設備に併設するだけなので,事前に工事さえ実施しておけば比較的早期に提供できる。さらに全国で提供するのか,他の周波数帯で早く提供すべきかなどはこれから判断する。提供時期は明確にしていない。

総務省は今回,1.5GHz帯で3.9Gの免許を募集する。

 1.5GHz帯では国際ローミングができない。事業者の立場からすると,これは非常に重要な問題。我々が800MHz帯の再編に約5000億円も投資しているのは国際的な周波数と合わせなければユーザーに迷惑がかかるから。同様に3.9Gの周波数帯も,800MHz帯と2GHz帯をメインにせざるを得ない。

KDDI 代表取締役社長兼会長
小野寺 正(おのでら・ただし)氏
1948年2月3日生まれ。宮城県出身。70年3月に東北大学工学部電気工学科卒業。同年4月に日本電信電話公社(現NTT)入社。84年2月にマイクロ無線部調査役。84年11月にDDI入社。89年6月に取締役就任。95年6月に常務取締役。97年6月に代表取締役副社長。98年6月に技師長兼移動体通信本部長。2000年10月にDDIとKDD,IDOが合併した新生DDIが発足し,同社の代表取締役副社長に就任。2001年4月にKDDIに社名変更。同年6月にKDDI代表取締役社長。2005年6月に代表取締役社長兼会長に就任し,現在に至る。趣味は音楽鑑賞と,愛犬と近所を1時間程度ウォーキングすること。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年12月2日)