ソニー VAIO事業本部 企画戦略部門 企画部 Mobile PC課 プロダクトプロデューサー 伊藤好文氏
ソニー VAIO事業本部 企画戦略部門 企画部 Mobile PC課 プロダクトプロデューサー 伊藤好文氏
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ソニー VAIO事業本部 NotebookPC事業部 1部 1課 シニアプログラムマネジャー 鈴木一也氏
ソニー VAIO事業本部 NotebookPC事業部 1部 1課 シニアプログラムマネジャー 鈴木一也氏
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ソニー ITマーケティング部 プロダクツMK課 岩井剛氏
ソニー ITマーケティング部 プロダクツMK課 岩井剛氏
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さまざまなデザイン、大きさのモックアップを50種類以上作成したという
さまざまなデザイン、大きさのモックアップを50種類以上作成したという
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液晶の大きさも検討を重ねた
液晶の大きさも検討を重ねた
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搭載する部品の約3割をtype P専用に開発したという本体を一から分解してくれた
搭載する部品の約3割をtype P専用に開発したという本体を一から分解してくれた
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所狭しと並べられた部品。ソニーのノートパソコンの現行モデルでファンレス機構を採用した唯一のモデルだ
所狭しと並べられた部品。ソニーのノートパソコンの現行モデルでファンレス機構を採用した唯一のモデルだ
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写真右の基板の下にあるヘッドホン端子と、左の基板に付いているUSBやAC電源端子が向かい合っている。中央のフィルム上の配線の部分で基板が折り曲がる
写真右の基板の下にあるヘッドホン端子と、左の基板に付いているUSBやAC電源端子が向かい合っている。中央のフィルム上の配線の部分で基板が折り曲がる
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上の写真にある基板を左右重ね合わせるように折って、本体の左側面に配置する
上の写真にある基板を左右重ね合わせるように折って、本体の左側面に配置する
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省スペース化するために部品と部品をケーブル接続するためのコネクターを付けなかったという。パーツからフィルム状のケーブルが“生えている”ような状態だ
省スペース化するために部品と部品をケーブル接続するためのコネクターを付けなかったという。パーツからフィルム状のケーブルが“生えている”ような状態だ
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熱を逃がすためにCPU周りに設置されるヒートパイプ(オレンジ色のパイプ)はtype P専用に設計された“極薄”仕様
熱を逃がすためにCPU周りに設置されるヒートパイプ(オレンジ色のパイプ)はtype P専用に設計された“極薄”仕様
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これがtype Pに埋め込まれたすべての部品だ
これがtype Pに埋め込まれたすべての部品だ
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 2009年1月16日に発売されたソニーのネットブック(低価格ミニノート)「VAIO type P」。実勢価格が10万円を切るポケットサイズのノートパソコンだ。発売前に直販サイト「SonyStyle」で展開したティザー広告へのアクセスや発表後の予約状況は、かつてないほどの好評だったという。満を持して投入したソニーのtype Pがどのような開発経緯をたどったのか――。担当者のインタビューとtype Pの分解パーツから明らかにしていく。

type P着想の時期と経緯を教えてください。

伊藤氏:今から1年半前に開発の構想がスタートしました。今でこそ、低価格パソコンの市場が立ち上がっていますが、あの頃はそのような市場はなかった。「今の時代における小型パソコンのあり方をもう一度考えたい」ということからスタートしたプロジェクトです。文字通り、形もないゼロからのスタートでした。

 最初に考えたのが、携帯電話の存在です。いつでも手元にある携帯電話。この存在を無視しては考えられない。携帯電話と一緒に持ち出してもらえるものでなければいけないと考えたのです。いまや、ネットサーフィンだって携帯電話でできる時代。多機能で軽量な携帯電話と一緒に持ち出してもらうには、パソコンとしての使い勝手は犠牲にできないと思いました。

 そこでこだわったのは、主に3点です。入力のしやすさ、画面の表示能力の高さ、片手で持ち出せること。サイズを決める際も、キーボードの打ちやすさを重視しました(編集部注:ファンクションキーを備えたキーボード、キーピッチ約16.5mm、キーストローク約1.2mm)。奥行きが120mmなのですが、これに関してもミリ単位までこだわりました。例えば、3ミリ程度増えるだけで片手で持ったときに持ちにくくなる。丸みがあるかないかで持ちやすさは違いますし、端子の位置によってもデザインテイストが変わる。これらをそれぞれ違えたモックアップを50種類前後は作りました。通常では考えられない数です。

当落線上だった「有線LAN」と「マイク入力」

鈴木氏:デザイン部隊とも大いに議論しました。端を丸くすると、その分、部品は端まで入れられないことになります。120mmの奥行きを精一杯使えないことなりますよね。この丸さによって、実質、部品を入れられるスペースは10mm程度マイナスの110mm程度になるわけです。ミリ単位でデザイン部隊とは話し合いを重ねました。

 半年かかって形やデザインを決め、あとは機能の取捨選択に入りました。「この大きさじゃ、この部品が入らない」「いや、でもこの機能はあきらめられない」――。そういったことの繰り返しでした。例えば、ワンセグ。部品の実装スペースが必要となり、価格が高くなることを考えれば、もちろん落とした方がいい。でも、日本のマーケットを考えると外せませんでした。この形状と重さで部品を収めるために、約3割の部品は新たにtype P専用に作りました。

伊藤氏:当落線上で、最終的に落としたのが「マイク入力」と「有線LAN」の端子です。このうち、マイク入力端子に関しては内蔵マイクを入れることでカバーしました。マイク入力端子は付いてないパソコンはほとんどない。常識外の選択をしていいのかという意味で、迷ったのです。

 有線LANに関しては、外に持ち出してプライベートに使って欲しいというメッセージも込めて、外しました。もちろん、きょう体を薄くしにくくなるいうデザイン上のデメリットもあった。一方、いくらプライベートで使って欲しいとこちらが言っても、仕事で使いたい人もいる。そういった方達のために、有線LANと外部ディスプレイの外付けコネクターを用意しました。これは、AC電源と一緒に連結して持ち出せます。ビジネスでの用途を捨てたわけではありません。

開発の最中に、ものすごい勢いでネットブック市場が立ち上がりました。

伊藤氏:確かに、その勢いやマーケットは注視していました。ただ、市場が立ち上がったからといって、自分たちのコンセプトを変えることはありませんでした。我々の製品は、低価格を目指したものではなく、持ち出すことを目指したものだったからです。そこに向かって、CPUもバッテリーもキーボードも調整しています。その辺に関しては、ぶれることはありませんでした。

鈴木氏:一方、価格は最後まで揺れましたね。最終的に10万円を切る、と決まったのは秋頃でしょうか。量販店に置かれたとき、10万円を超えているのとそうでないのとでは、ぱっと見の印象が変わります。

岩井氏:当時はVAIO type Uを17万~18万円で売っていました。購入してくれたユーザーからは「これが12万~13万円だったら嬉しい」というご要望が多く寄せられていました。一方で、5万円台以下のAtom搭載ミニノートが人気を集めていた。これらの意見や動向の間を取ろうという意識もあって、10万円を切ることが目標となりました。

伊藤氏:この製品は女性の購入者も多いと思っています。そのため、当社で女性を中心に意見を聞いたときに、おもしろい話がありました。価格の話をしていたときに、「10万円以上するなら、コートを買う」という女性がいたのです。男性をターゲットにしていれば、ほかのパソコンが競合になるのですが、女性の場合はコンペティターはほかにあるのだと思い知らされました。つまり、10万を超えると、目にも留めてもらえない可能性が高い。そういった意味でも、10万円を切るというのは至上命題でしたね。

OSはVistaを採用しています。

鈴木氏:本当はXPと両方やりたかった。ユーザーのリアクションを考えると、一番心配していた部分ではあります。それでもVistaを採用した理由は、大きく2つ。動画再生支援機能と見やすさです。Vistaなら、この非力なマシンでもAVCHDのファイルを再生できます。見やすさという面では、この8型のディスプレイにとって、Vistaの見やすいフォントや柔軟な表示拡大機能が魅力的だった。総合的に判断した結果、Vistaのみでの販売ということになりました。

 XPの方が軽くてサクサク動くという意味でニーズは高いですが、「サクサク感」は他社のVista採用ネットブックと比べて高いと自負しています。ドライバーのチューニング、2GBのメモリー搭載、エアロ機能のオフなどが理由かと思います。

「10万円のtype Pを格安ミニノートと並べてもらえるのはむしろ有り難い」

店頭で格安のネットブックと並べられる中で、10万円という高価格帯の製品は不利だとは思いませんか。

鈴木氏:外に持ち出すことを目的としたユーザーであれば、あらゆる意味で「持ちやすい」と判断するはずです。最小構成で500g台の重さ、バッテリー駆動時間も標準バッテリーで約4時間。これらは従来のネットブックと呼ばれるものに比べて圧倒的な差。この価格に見合う最強の製品だと思っています。そういう意味では、逆にネットブックと一緒に並べてもらえるならそれは有り難い。我々の製品の付加価値が際だつからです。

岩井氏:どちらかというと、歴史的にVAIOのモバイル製品は競争がないことが多かった。そういった意味では、どんな形であれ、競争がある方が良いと思っています。