新規参入組であるグーグルが、エンタープライズ分野で信頼を得るのは容易ではないのでは。
おっしゃる通りです。様々な面で信頼を得ていかなければ、この分野で成功することはできません。
なかでも第一はサービスの信頼性を高め、常に利用可能な状態を保つことです。それからデータのセキュリティ。企業が自社に置いておくよりも、グーグルに任せたほうが安心、安全であると、感じてくれるようになること。それに対しても私たちは努力をしていかなければなりません。
ユーザー企業の特性に応じたサポートやトラブル対応の仕方も必要になるでしょう。友人として信頼していただけるような形での信頼構築の構築を目指していきたいと思っています。
米国では1万5000人の導入事例も
本誌でJTBがGmailを導入するニュースを報じました。米国でも同様な大規模導入事例はあるのでしょうか。
ここ1年ほどの間に、Gmailなどの導入に向けたテストが活発化してきました。特に今年に入ってからは、数千人規模の大企業で導入が始まりつつあります。
つい最近も、1万5000人の社員を抱えるジェネンティックというバイオテクノロジ企業が、Gmailの利用を開始しました。こうした大規模事例が出てくれば、他の企業でも関心が高まって導入機運が盛り上がるのではないかと思います。
メールや情報系以外のサービスの利用状況や強化方針はどうでしょう。クラウドコンピューティングで言えば「App Engine」を今年5月に公開しましたね。
App Engineは当社の巨大なインフラを開放して、その上でアプリケーションを開発してもらえるサービスです。まだ6カ月前に公開したばかりのサービスですから、機能や性能をもっと改良しなければエンタープライズ分野での展開は難しいでしょう。すでに(現在利用可能な言語であるPythonに加えて)Javaを利用可能にしたり、暗号化通信機能のSSLを利用できるようにすることを発表しています。今後に期待していただきたいですね。
ただし当社がApp Engineで狙っているのは、既存システムのホスティングではありません。SAPで開発した基幹業務システムをホスティングしたり、米アマゾン・ドット・コムのように仮想マシンベースのLinuxやWindows環境を用意するのが狙いではないのです。これらはすでにコモディティ(日用品)化しているので、今から当社が参入する意味はありません。
クラウド時代の新しいソフト作る
むしろ全く新しいアプリケーションを書くためのプラットフォームを提供していきます。現在はApp Engine上に小規模なアプリケーションを公開して、一般の開発者に評価してもらっています。App Engineを使ってクラウド時代の新しいソフトウエアを作り、それを販売したり流通したりするところまで、このモデルを成熟させていきたいと考えています。
日本の大手ITベンダーはグーグルのライバルになるのでしょうか。
むしろパートナー企業として、非常に重要視しています。これまで当社の日本市場におけるビジネスは、検索アプライアンスなどの販売代理店契約が主体でした。これからはIT分野の専門企業とパートナーシップを組んで、グ ーグルのサービス上でアプリケーションを書いていただくなど、可能性を発展させていきます。オンプレミス(自社運用型)システムとクラウドを連携する技術の開発も重要です。ユーザー企業の既存システムがなくなることはないからです。
具体的な成果を出すには至っていませんが、すでにほとんどの大手ITベンダーと議論を始めています。日本の大手ITベンダーやシステムインテグレ ータは、これまでメインフレームやクライアント/サーバーの世界で仕事をしてこられました。そろそろ考え方を変える時期に来ているのではないでしょうか。
エリック・シュミットCEOからは、エンタープライズ事業の売り上げ目標などの数値を課されているのですか。
いいえ。そもそもグーグルの企業文化として売り上げやユーザー数といった数字を与えられることはありません。エリックから言われているのは、小さい問題にこだわらず大きな視点で問題を解決しろ、ということです。
では、あなたが現在取り組んでいる高い問題は何ですか。究極のゴールと言ってもいいかもしれません。
究極のゴール、ですか(苦笑)。エンタープライズ事業をグーグルにとって2番目に大きな収入源になる分野に育てていくこと。そしてエンタープライズ市場自体にもう一度エネルギーを投入し、活性化することですね。
ここ数年、エンタープライズ向けITやコンピューティング環境の進歩は停滞していました。当社は斬新な技術や快適な操作環境をもって、エンタープライズ分野を再び活性化させます。
デイブ・ジロード氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集部長,取材日:2008年11月12日)