景気悪化により,派遣社員の雇用情勢悪化が社会問題となっている。専門性の高いITエンジニアといえども,派遣社員が置かれている立場は厳しい。ITエンジニアの派遣事業を展開するパソナテックの加藤直樹取締役に,派遣ITエンジニアの現状と今後の見通しを聞いた。

(聞き手は羽野 三千世=ITpro


派遣ITエンジニアを取り巻く社会情勢について教えてほしい。

パソナテックの加藤直樹取締役
パソナテックの加藤直樹取締役
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 景気悪化でITエンジニアのニーズが急減している。特に金融業界では,景気後退と,メガバンクの基幹業務システムの統合案件が2008年秋で一段落したことによるダブル・パンチで,SEのニーズが極端に減少している状態だ。派遣ITエンジニアの時給は,基本的にはスキルによって決まるものだが,時代のニーズに合わせて変動する。足元では金融系SEの単価下落が著しい。

 しかし逆に言えば,現在の状況は他の業種の企業にとって優秀な人材を採用するチャンスだ。今,当社ではベンチャーなどIT人材確保に積極的な企業への営業を強化している。

今後,IT業界ではどのような動きが想定されるか。

 2009年から2010年にかけて,IT業界は相当な改編があるだろう。景気悪化で,ユーザー企業はコスト削減のために従来のITベンダーとの契約を抜本的に見直さざるを得ない状況にある。2009年は企業契約の多層構造崩壊と,ITゼネコン解体の元年になるかも知れない。

 改編の兆候として,UISS(情報システムユーザースキル標準)の習得が広まっていることが挙げられる。UISSは,ユーザー企業の経営の意思決定層から運用・検証スタッフまでのIT人材育成を目的としているが,ユーザーの立場でベンダーのアウトプットを評価するという考え方に基づいている。ユーザー企業がパートナー・ベンダーを再評価する動きが強まっている。

IT業界再編は派遣ITエンジニアにどう影響するか。

 企業契約の多層構造の崩壊により,アウトプットが出せるエンジニアが再評価されるようになる。スキルが正当に評価されて,スキルに見合った給料が支払われるようになるので,長期的には派遣ITエンジニアの幸せにつながるだろう。