携帯電話の販売が低迷している(関連記事)。電子情報技術産業協会(JEITA)が1月15日に公開した「移動電話国内出荷台数実績」によると,2008年11月まで5カ月連続で対前年同月比を割り込んでいる。こうした状況下,これまでソフトバンクモバイル専業の販売代理店だったベルパークは,フィンランドのノキアが展開する携帯電話の高級ブランド「Vertu」(ヴァーチュ)の端末を取り扱う計画。ベルパークの西川猛代表取締役社長に最近の市況やヴァーチュについて聞いた。

(インタビューは2008年12月16日,聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション


“ケータイ不況”をどう見ているか。

ベルパークの西川猛代表取締役社長
ベルパークの西川猛代表取締役社長
[画像のクリックで拡大表示]

 「官製不況」と言われるが,例えばソフトバンクモバイルは,総務省のモバイルビジネス活性化プランが分離プラン(端末価格と通信料金が混在したような料金体系を改め,通信料金を明確にすること)を打ち出す前の2006年10月から割賦販売を始めていた。“官製”だけが不況の原因ではないだろう。

 今の携帯電話の総販売台数急減には,三つの側面があると考えている。一つ目は各社の割賦販売導入で購入時の端末価格が上がり,買い換えサイクルが伸びたこと。二つ目は世界同時金融不況の影響。三つ目はユーザーが携帯電話に対して機能的な達成感を感じていることだ。このうち,三つ目の要因が販売台数に与える影響は分析できていないが,一つ目の割賦と二つ目の不況の影響で37%減というイメージを持っている。割賦の影響による販売の落ち込みが3割,不況の影響による買い控えが約1割。つまり0.7×0.9で37%減(63%)というわけだ。

 ただ,この不況といわれる状況は今に始まったことではない。われわれの店舗当たりの販売台数の落ち込みの推移を見ると,実は大分前から落ち込んでいる。落ち込みが始まったのは2007年の途中から。機種変更が4割近く落ち込んだ。つまり,構造的なものは2007年から始まっていたといえる。ただソフトバンクモバイルは,新規の獲得が好調だったので,それが販売台数をカバーしていた。その後,ソフトバンクモバイルが店舗を増やす方針を採ったため,2008年は1店舗当たりの新規販売がマイナスに落ち込んだ。

 こうした状況の中,世界金融不況が追い討ちをかけた。ただ,経験上,不況期に携帯電話は強い。私は以前,商社で自動車を取り扱っていたため,自動車の市況もよく見ている。自動車関連に比べれば携帯電話ははるかにマシだ。

 年末はタイヤ交換などもあって自動車関連の店舗は混んでいることが多い。だが,今期はそうでもない。ただ,それは自然なことで,消費者は金額が大きく節約しやすい順から節約するということだ。携帯電話は毎日持ち歩くだけに,2年も使うと電池の“持ち”などが悪くなる。そうするとやはり「買い換えようか」となる。携帯電話は月額2000円程度からでも使える。一方,自動車を購入するためにローンを組んだら月何万円にもなるだろう。そういった感覚からすると,携帯電話は本来不況に強いといえる。携帯電話はライフラインでもあり,需要は底固いはずだ。

新規契約数が減ってくるとソフトバンクモバイルの純増維持は難しくなるのでは。

 ソフトバンクモバイルには約2000万の加入者がいる。毎月の解約率が0.9%だと解約は月当たり18万となる。新規契約の数が落ちてきたとしても,ソフトバンクモバイルは割賦販売によって解約率が下がっている。つまり解約数が減っているため,これが純増を維持し続けてきた一つの要因だ。

 一方,加入者が多い事業者,たとえばNTTドコモの場合,加入者は約5000万だ。解約率が0.6%だとしても,それだけで月当たり30万の解約数になってしまう。純増のためには,この解約数を上回る新規契約を獲得しなければならない。その分,純増数の大幅な増加は難しくなる。

スマートフォンの売れ行きは。

 販売の5~10%がモバイル・インターネット系,タッチ・パネル型の機種になってきており,新たな需要が出始めている。

 7月のiPhone発売以降,こうした分野の端末の販売がじわじわと伸びている。この市場に対してはあせって取り組むつもりはない。全体の1~2%に落ち込んだらこのマーケットは終わりだと思うが,一定の割合で売れ続けているからだ。新機種にすぐ飛びつく人の5%はタッチパネル型の携帯電話を購入しており,ある意味安心できる市場になりつつある。市場に何らかの変化をもたらすだろうな,という期待感がある。

ヴァーチュの代理店になっているが,今後どのように展開するのか。

 実はこのあいだ(編集部注:12月前半),ヴァーチュのレセプション・パーティーがあった。この景気の落ち込みとは関係なく,意欲的に買おうというリッチ層が意外と多く来場していた。

 2月にオープン予定の東京・銀座の店舗はヴァーチュの直営だが,ベルパークとしては名古屋と大阪での店舗展開を検討している。店舗の場所はブランド・ショップが軒を並べているところしかヴァーチュ側が認めないため,そういう立地を選ぶことになるだろう。ただ,これからの経済情勢がどうなるか分からない。当社として店舗展開するかどうかは,ヴァーチュ側と相談して決めることになる。