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 製油の精製から販売までを手がける米バレロエナジーは2003年からSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくシステムの構築に取り組んでいる。システムの複雑さを解消するだけでなく、構築したSOA基盤を活用してエンタープライズ2.0と呼ばれる利用者参加型の企業システムに挑む。IT戦略を担当するナヤール氏に数年来の取り組みと成功の秘訣を聞いた。(聞き手は、矢口 竜太郎=日経ソリューションビジネス)

2003年からSOAに基づいて全社システムを見直している。きっかけは何だったのか。

 全社のシステムが複雑になりすぎていたことだ。“SOAの旅”を始める前は約500のシステムが乱立していた。

 独SAPのERP(統合基幹業務システム)製品のほか、多くのパッケージが存在していた。独自開発のシステムも少なくなかったし、利用しているツール類やミドルウエアもバラバラだった。過去に買収した企業が所有していたシステムもあり、機能的に重複しているものもあった。

 システムが乱立しているだけでなく、相互に連携しているために、システム同士の関係を把握しきれなかった。リサーチ会社の米ガートナーによれば、システム間連携が一つあると年間5万~10万ドルの費用が発生するという。仮に1000のシステム連携があったとすれば、1億ドルのコストになる。当社もおそらく、そのくらいのコストが発生していたはずだ。

 システム同士の関係がスパゲティ状態だったので、目的とするデータを抽出しようとすると、干草の山の中から1本の針を探すほどの労力が必要だった。そのような状況では、「必要な情報を適切なタイミングで取得したい」というユーザー部門の要求に応えられない。現状とニーズとの間には大きなギャップがあった。

問題の解決に向け、何から手を付けたのか。

 ビジョンの策定だ。当時の状況はインフラが整備されていないのと同じ。そこで、どのように情報インフラを整備するかに関する方針を立てた。

 方針の概略としてはまず、システム全体の複雑さを減らすとともに、インテグレーションコストを下げる。同時にデータの重複を最小限にし、ユーザーのニーズに瞬時に応えられるようなシステムにする。

 次に実行したのが、ビジョンを達成するためのアーキテクチャデザインだ。この段階では、どのようなツールを使って実現するかは考えていない。システム全体をどのように構築しなおすのかを議論した。そこで採用したのがSOAだ。

 具体的には「サービスレイヤー」と呼ぶ、個別のシステムとは別のレイヤーを設けた。ユーザーに提供すべき機能は何かという観点から、既存システムの機能もしくは複数の既存システムの機能をサービスという単位で規定した。そのサービスを組み合わせてアプリケーションを作ることにした。

アーキテクチャをデザインした後は、どんな作業を行ったのか。

 ビジョンとアーキテクチャデザインは素晴らしいものができた。後は実装だ。そこで、実装するツールを選んだ。

 SOAを実現するツールのスタック(積み重ね)は多くのベンダーが提供していた。SAP、米IBM、米マイクロソフトなどは開発ツール、システム連携ツール、ポータルツールといった、SOAを実現する上でのフルスタックを用意していた。