[後編]クラウドについては何時間でも話せる

>>前編 

グリーンITへの取り組みが注目されています。

 ご指摘の通りです。AMDはこれまでもデータセンターの消費電力を抑えて最適化するというトレンドを常にリードしてきました。現在ではグリーンITは、IT業界が必ず考慮しなければならない基本的な考え方となっています。

 システムのROI(投資対効果)を考える際にもグリーンITは重要です。当社は新しいプロセサが出ても、同じ消費電力や熱設計を保つポリシーを貫いてきました。これにより、性能が上がっても、ユーザーは同じサーバー、同じデータセンターの設備や電力ソースを使い続けることができたのです。これがユーザーのROIの向上に貢献してきました。

サーバーなどシステムを購入せず利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やクラウドコンピューティングが本格化してきました。そのような時代にプロセサはどう変わっていくのでしょうか。

 極めて興味深い話題で、何時間でも話せてしまいます(笑)。まず今後、SaaSやクラウドコンピューティングが本格化するにつれて、プロセサの省電力などグリーンITがますます重要なポイントになると思います。

 サーバーやシステム全体として冗長性をどのように保つかもカギになります。グーグルのような単一の大企業が、極めて多数のサーバーでサービスを提供するようになるからです。マイクロソフトのように自社の製品をベースにしたクラウドサービスを提供する企業もあります。

 当社はユーザーがIT資産を所有するサーバーベースと、クラウドやユーティリティコンピューティングの提供者であるデータセンターベースという、二つのコンピューティングのビジョンを描いています。

 ただ現段階で企業がクラウドに大挙して移行するのは考えづらいですね。最たる例が金融機関です。セキュリティの面などで難しいでしょう。どちらにしても今後、企業がクラウドコンピューティングのROIを精査し、その結果が納得できるものであれば、クラウド型の需要が増えていくと見ています。

小型PC向けに新プラットフォームを投入

日本では5万円の小型パソコンの市場が盛り上がっています。AMDとしてはどのような戦略を描いていますか。

ダーク・マイヤー氏
写真:柳生貴也

 小型のPCにはユーザーインタフェースが弱いなどの問題があり、既存のPCほどのエクスペアリエンスを得ることができません。そこで我々は2009年、ATIのビデオ機能を搭載したモバイルPC用の新プラットフォーム「Yukon」を投入します(編集部注:Yukonに使われるCPUの正式名称はAthlon Neoとなった)。

 Yukonを搭載したPCはネットブックと同等かそれ以上の機能があります。フルのPCに対するコスト競争力も持ちます。

プロセサの開発や製造にはますます大きな投資が必要になっています。08年10月に発表した、アラブ首長国連邦(UAE)のファンドであるAdvanced Technology Investment Company(ATIC)との提携はどのような意味を持つのでしょうか。

 ATICなどとの提携で、製造だけを行うファウンドリの新企業を設立することにしました。当社の独ドレスデンの工場を拠出したり、米ニューヨークの北部に最先端の製造施設を建設したりする予定です。

 その理由について説明しましょう。まずプロセサのような半導体の業界では、製品を作って販売して収益を上げることが年々困難になっています。開発費が高騰しているからです。これがこれまでの10年間の問題でした。

 逆に我々の持っている製造装置を“種”として、他に生かすことができないかという視点もあります。我々はもともと製造分野でも先端的な技術に投資をしており、差別化が図れると考えたからです。

 他社から注文を受けるファウンドリとしては、台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)が独占的な位置にいます。しかし我々の新会社も競争力があり、チャンスを拡大できます。かなり大きなボリュームの注文にも対応していきます。

米AMD社長兼CEO
ダーク・マイヤー氏
米イリノイ大学でエンジニアリングを専攻、米ボストン大学で経営学修士号を取得。米インテルや米ディジタルイクイップメントでのプロセサ開発を経て、1995年AMD入社。クライアント・パソコン向けプロセサ「Athlon」の開発責任者やコンピュテーション製品グループ(CPG)の責任者などを歴任し、2004年CPG取締役副社長に就任。05年AMDマイクロプロセッサソリューションズセクター社長兼CEO、08年AMD社長兼COO(最高執行責任者)、08年7月から現職。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集部長,取材日:2008年12月11日)