スケダチ 高広 伯彦氏
スケダチ 高広 伯彦氏
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 博報堂、電通、グーグルと職場を変えながら一貫してネット広告、マーケティングに携わってきた高広伯彦氏(関連記事12)は2009年1月初旬にグーグルを退社。「スケダチ 高広伯彦事務所」を屋号として、広告代理店、メディア、広告主を対象に、広告ビジネス企画/開発サポート、広告キャンペーン企画を中心としたコンサルティング、プランニング事業を個人事業主として始めた。同氏は博報堂、電通を経て2005年12月にグーグル入社。その業務だけでなく個人ブログ「mediologic/weblog」などを通じて広告業界における影響力は大きく、独立は話題を呼んだ。その背景と高広氏が考えるネット広告、ネットマーケティングの現状、課題について聞いた。
(聞き手は、杉本 昭彦=日経ネットマーケティング

独立の経緯は。

 事務所のドメイン「sukedachi.jp」を取ったのは、実は、電通を辞めるタイミング(2005年)だった。コミュニケーションプランニング、広告企画専門の事務所を作って独立しようと考えていた。そのときに、グーグルに勤める知り合いから「グーグルに興味ありますか」と、「GREE」のメールボックスに連絡があった。広告代理店と違う立場で、(広告の配信)プラットフォーム側で新しい広告の仕事をするのはいい経験になり、独立はもう少し後でもできると思いグーグルに入社した。

 博報堂時代にも、「ペタろう」(職場内用メッセンジャーソフト)、「電子年賀状」など広告代理店が自ら広告プラットフォームを作るようなビジネスをしていたこともあり、新しい広告ビジネスを作ることに興味、やりがいを感じていた。広告ビジネスは通常、既に(広告掲載の)枠が存在する。その中でどういうクリエーティブ、企画を作るかが広告ビジネス。ネットは“土地の区画整理”も含めて全部できるのが面白いところ。

 グーグル入社の時にも「将来的に何をやりたい?」と当時の村上憲郎社長から聞かれて、「今の広告会社とは違うかもしれないが、広告にかかわる会社を作りたい」と言ったほどで、そもそも独立志向があった。その時から「3年後」という話をしておりぴったりのタイミングだった。

独立するには大変な時期ではないか。

 気分的なタイミングと世の中の不況のタイミングがうまく合致した。グーグルがネットバブル後に伸びたことも考え、不況時は広告業界の新たなシフトのタイミングであると見込んでビジネスを始めた。

 というのも、例えば広告主の予算は数十億円から数億円に減るかもしれないが、マーケティングは続けないといけない。テレビCMなどマス広告を買っていた広告主は少なくなった財布のお金をどう使うか、マス広告の新しい買い方を考えなければいけない。予算が減ってマス広告が否定されるのではなく、少ないならではの買い方、ほかのメディアとのシナジーを作るようなマーケティングを考えることになる。

 (それに対応する)新たなマーケティング手法を提供しないといけない。お金が潤沢にない時代は、小規模の小回りの利くプランニングへのニーズが高いと思う。

 また、広告ビジネスにおいて予算の投資、配分の変化が起きて、ネットに対する期待でメディア面のシフトが始まる。グーグル同様、不況時には広告メディアの新しい広告配信プラットフォームが出てくる可能性が高い。その支援もしていきたい。

なぜメディアへの支援が必要になるのか。

 「Yahoo!JAPAN」にしても、「mixi」「GREE」にしても、ネット広告のメディアは広告業界から生まれたものではない。すべてIT業界から生まれている。IT業界から生まれるメディアは、広告ビジネス側からみると新しい半面、IT業界には広告ビジネスの慣習などを知らない人が多い。IT業界で新しい広告ビジネスを始めたい人に、広告業界の知恵を授ける支援へのニーズがあると思う。

 一方、企業のマーケッターと広告代理店も、メディアやネットの使い方に困っている。大手代理店にもネットのプランニングをできる人は増えたが、最近始めた人も多い。例えば、リッチメディアで何ができるか知らない人も少なくない。メディア、広告代理店、広告主の三者の間には、埋まっていない“隙間”がたくさんある。その隙間を埋めて、広告業界にかかわるすべての人の困っている部分を「スケダチ」したいという意図で事業を始めた。