>>前編
2009年にリリースする通信機能付きカーナビ「WND」(wireless navigation device)とは,どんな製品なのか。
カーナビには高価で高機能,自動車備え付けの「純正カーナビ」と,それよりも機能を抑えて小型で安価なPND(personal navigation device)がある。WNDは従来のPNDのマーケットを置き換えるものになるだろう。
一般的なカーナビは,CD-ROMやDVDに収められた静的なデータを基に経路を求めるものが多い。WNDではこれまで当社が提供してきた携帯電話向けのサービスのノウハウを使って,一部のデータをネットワーク経由でサーバー側から配信する。時刻表など,平均して1カ月以内に更新のあるデータはサーバー側に置いて動的に更新し,地図や住所といった更新頻度が低いデータはサーバー側とデバイス側の両方に持つ形だ。例えば,東京タワーのように動かない地点の情報をデバイス側に持っておけば,通信が途中で切れても,ある程度はナビゲーションを続けられる。バラバラのタイミングで更新される最新データを利用して,常に最適な経路をユーザーに提供する。
WNDは,まずは経路検索用のソフトウエアをOEM提供するところから始める。いずれ,既存の通信機能付きデバイスにNAVITIMEブランドでソフトを提供したり,デバイスと通信回線をパッケージにして自社ブランドで提供することを考えている。
WND参入のきっかけは。なぜソフトウエアだけでなく,ハードウエアや通信回線まで手がけようとしているのか。
まず,国内外を問わず,ハードウエア調達が容易になってきた。OEMでデバイス開発を請け負う企業がたくさんある。そうした企業に仕様やデザインを指定すれば,チップセットや筐体の作り込みが簡単にできあがる。
もう一つは,通信インフラの状況が変化してきたためだ。今までは「まず携帯電話ありき」で,そこにカメラやワンセグ,音楽プレーヤ,経路検索など様々な機能を盛り込む形でデバイスが進化してきた。携帯電話以外の機器に通信機能を持たせようとすると,コストが高すぎるからだ。
だが,モバイルWiMAXや次世代PHS,3.9G携帯電話といった次世代モバイル・ブロードバンドが始まると,携帯電話以外のデバイスにも通信機能が組み込まれる可能性が高い。それとともに,通信サービスの料金体系も大きく変わるのではないかと期待している。
あと1~2年したら一つのIDで携帯電話,デジタルカメラ,WND,音楽プレーヤなど様々なデバイスの通信機能を利用できるようになるかもしれない。携帯電話のパケット定額サービスに月額4000円くらいで加入し,それに数百円程度を上乗せすることで他のデバイスの通信機能も使える──といったサービスが考えられる。当社が現在,携帯電話向けに提供している経路検索がこうしたデバイス群から利用できるようになるとしたら,これは大きなビジネス・チャンスだ。
WNDについては,3年間の通信機能込みで5万円程度の価格なら,大きく普及するのではないかと思う。純正カーナビは高性能デバイスなので,10万~20万円しても高くはない。しかし,そこまで高額な製品が大きな市場を築くのは難しい。現時点ではWND関連のハードウエア,次世代モバイル・ブロードバンドともに価格がはっきり決まっていない。この段階で,「5万円」と打ち出すことで,ユーザーが手に取りやすい価格を実現していきたい。
技術的な面で現在のナビゲーション・システムに課題はないのか。
実は,通信速度に関しては現在の3G携帯電話の数Mビット/秒の速度でもあまり問題ない。次世代モバイル・ブロードバンドに期待する点としては速度もあるが,どちらかといえば多様なデバイスへの通信機能の搭載や,料金体系の変化の方が大きい。
GPSの精度も現状で十分だ。今後,日本の準天頂衛星が打ち上げられたら,さらに精度が上がるだろう。
MVNO(仮想移動体通信事業者)参入は検討しているのか。
ユーザーが受け入れやすい価格帯を実現するためにMVNOが最適となれば,参入もありえる。先ほど言った一つのIDで複数デバイスの通信を安く提供する仕組みのほかに,当社がまとめて回線を借り受けて,デバイスとセットで販売する方法が考えられる。
海外展開については。
当社が最終的に目指すのは,全世界でのナビゲーション・サービスのデファクト・スタンダードだ。すでに世界29の国と地域に対応した「Global NAVITIME」を提供している。また国外ベンダーのPNDが,NAVITIMEのエンジンを採用した実績もある。
今後は,WNDで海外に進出していく。現在,PND市場で世界的に高いシェアを持つオランダのトムトムや,米ガーミンインターナショナルとは正面から競合することになるだろう。
大西 啓介(おおにし・けいすけ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年10月20日)