トヨタ自動車が2009年3月期に大幅な減収減益を見込むなど、現在、日本の様々な業種で多数の企業が経営危機に瀕しつつある。米国に本社を置く経営コンサルティング会社大手A.T.カーニーの後藤治パートナーは「不況の今こそ、企業は組織変革に踏み切るべきだ。親会社だけでなくグループ各社が一体となってあらゆる業務の無駄を無くすと同時に、しかるべき将来ビジョンを描き、それを実践する組織体制に変えるチャンスだ」と日本企業の経営者にエールを送る。

(聞き手は、杉山 泰一=日経情報ストラテジー


写真●「グループ全体のコスト構造改革に踏み切る企業が増えてきた」と語るA.T.カーニーの後藤治パートナー

日本企業の多くは、2000年にIT(情報技術)バブルがはじけてデフレ不況期に突入した際、早期退職制度の導入や、中国やインドなどへの生産拠点の移転など、コスト削減を徹底した経験がある。米国のサブプライムローン問題をきっかけとした現在の世界的な経済不安のなか、日本企業にはどんな打ち手が残っているのか。

 私が担当しているいくつかの国内企業を例に挙げると、企業グループ全体のコスト構造の見直しが考えられる。前回のデフレ不況期に多くの企業がメスを入れたのは、主にグループ中核会社のコスト構造だけだった。「子会社は聖域だから手を出せない」という意識があったからだ。

 しかし実際には、子会社や孫会社からグループ外へと無駄なコストが出ているケースが少なくない。つまり、子会社や孫会社も含めたグループ全体で無駄な経費を無くす余地がまだ残されているわけだ。グループ一体となって原材料やオフィス用品などを一括購入したり、グループ内の無駄な取引を見直したり、グループ全体で早期退職制度を導入したりするなど、様々なコスト削減のやり方が考えられる。

 また、グループの企業構成に改めて目を向けてみると、グループ内に残しておいても成長は見込めないが、他グループに売却すれば成長の可能性が高まる子会社や孫会社もあるはずだ。もちろんその逆もある。つまり、コスト削減と将来の成長という両方の観点から、M&A(合併・買収)を加速することも大切だ。

 研究開発費なども多くの企業にとって「聖域」だった。将来の成長などのために必要だが、費用対効果が正確には分からなかった。しかし、社内では判断しづらい研究開発費の効果も、様々な評価手法を知る外部のコンサルタントから見れば「明らかに無駄なもの」「明らかに今よりも良い使い方」が必ずある。少なくとも「このやり方では成功確率はゼロに近い」という判断ができる部分があるものだ。

しかし、経営者がコスト削減ばかりを訴えていると次第に従業員の士気が沈滞してしまう。また、現在の不況は出口がどこにあるのか全く見えていない。不況が長期化すればコスト削減だけでは乗り切れないのではないか。

 もちろん、その通りだ。だから、グループ横断でコスト削減の施策を実行するだけでなく、経営者は株主など社外のステークホールダーをも納得させられる成長戦略を明確に打ち出す必要がある。さらに、その成長戦略は国内の同業他社の動きを横目に見たものではなく、グローバル市場を視野に入れたものであるべきだ。

 流通構造や商習慣が異なるため単純比較はできないが、例えば日本の大手消費財メーカーの営業利益率は2%台なのに対し、米国の大手メーカーは6%程度もある。日本企業も国内の同業者の動向だけを意識するのではなく、6%を目指して成長戦略を描くことが望ましい。

 また、経営者は単に成長戦略を打ち出すだけではいけない。戦略を実行に移すリーダーシップが欠かせない。経営状況が苦しい今、いくつかの事業は縮小したり売却したりすると同時に、ここは伸ばしたいと判断した事業には資金や人材を増強することが求められる。当然社内からは不平・不満の声が出てくるだろう。創業者が経営する企業でない限り、この判断を断行し続けられる経営者はあまりいない。しかし現在は、こうした決断が不得手であってもやり遂げることを、多くの経営者が求められている。

 社員一人ひとりが自分の会社の経営状況を客観的に詳しく知ろうとする機運を作り出すことも大切だ。自分の会社の立ち位置を正確に把握しようと社員全員が努力するようになれば、いろんな改革提案が出てきたり、様々な業務スキルを磨いたり、日々の仕事への取り組み姿勢が良い方向に変わってきたりするのではないだろうか。