米Nexsan Technologiesは,価格重視のストレージを手がける,1999年設立の新興ストレージ・ベンダーである。データ・バックアップ用途にATA(IDE)のRAIDアレイで事業をスタートし,現在ではSATA/SASアレイを数製品ラインアップする。ITproは,新機種「SASBeast」の販売に合わせて来日した同社CEOのPhilip Black氏に,同社製品の特徴を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


米Nexsan TechnologiesでCEOを務めるPhilip Black氏
米Nexsan TechnologiesでCEOを務めるPhilip Black氏
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エア・フローや振動対策に特徴のあるSASBeast
エア・フローに特徴のあるSASBeast
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米Nexsan Technologiesはどのような会社なのか。

 ストレージの価格と性能に革新を起こすために設立した企業だ。2000年に出荷した第1号製品は,パソコン向けのATA(IDE)ディスクを使ったディスクアレイである。当社は,安価にRAIDを実現するIDE RAIDのパイオニアというわけだ。

 当時のIDE RAIDの主な用途は,テープを用いたデータ・バックアップをディスク・ベースに置き換えることだった。つまり,D2D(ディスクからディスク)市場のパイオニア企業でもある。

 現在では,バックアップ用途だけでなく,アーカイブなどのプライマリ・ストレージ領域へと適用領域を広げてきている。SATA(Serial ATA)の信頼性はFC(Fiber Channel)と比べても十分であるほか,現在ではSATAより高速なSAS(Serial Attached SCSI)も選択できるからだ。アーカイブ製品では,ハッシュ値でデータの差異を管理するCAS(Content Addressed Storage)も用意している。

 Nexsan製品のユーザー事例をいくつか示そう。(1)医療分野の事例では,1台のきょう体にSATA/SASを混在させている。カルテのメタデータをDBMSに格納する用途にSASを,画像データを格納する用途にSATAを使っている。(2)英国博物館の事例では,英語で書かれた書籍のすべてを長期アーカイブしている。(3)空港の事例では,滑走路の定点カメラ映像を数カ月サイクルで短期アーカイブしている。

米Nexsan製品の技術的な優位点は何か。

 第1に,信頼性が高い点を挙げよう。事実,他のストレージ・ベンダー製品よりも,米Nexsan製品のほうが,ディスク・ドライブの故障によるディスク交換の案件が少ないというデータが出ている。どういうことかと言うと,日立や米Seagate Technologyといったディスク・ドライブ・ベンダーはストレージ・ベンダーからのディスク・ドライブの返品率の平均値を公表しているのだが,米Nexsanはこの平均値を大きく下回っているのだ。他のストレージ・ベンダーよりもディスク・ドライブに対して優しく,ディスク・ドライブを故障させないということを意味している。

 ディスク・ドライブの故障を減らす方法の1つとして,他社とは異なる独自のMAID(Massive Arrays of Inactive Disks)仕様を挙げることができる。このMAID仕様は,他社から見れば次世代(第2世代)に相当する内容といえるだろう。特徴を一言で言えば,この第2世代のMAIDは,ディスク・ドライブに供給する電力を停止させない。常時ディスクを回転させ続けることで,ディスクの故障率を大きく減らす。逆に言えば,他社が採用している旧世代のMAIDは危険である。省電力のためにディスクを停止させると,再び起動する時にディスクの故障を起こしやすいのだ。

 第2世代のMAIDを,米NexsanではAutoMAIDと呼んでいる。ユーザーが設定するのは,「どれくらいのディスク性能が欲しいか」と「どれくらいの電力削減をしたいか」だけである。これらを定義するだけで,あとは自動的に,ディスク・ドライブへの電力供給を停止することなく,独自の省電力モードでディスク・ドライブを動作させる。省電力モードには,(1)ディスクの回転数は落とさずにヘッドをアンロードして空気抵抗を減らすモードと,(2)ディスクの回転数を下げるモードがある。

 なお,ディスクの回転数を下げる運用は,日立や米Seagate Technologyや米Western Digitalといったディスク・ドライブ・ベンダー各社が各様に用意している独自のフック(仕掛け)を,米NexsanのRAIDコントローラと組み合わせることで実現している。このように,ディスク・ドライブというのは,かなりの機能の種が,眠ったまま活用されずにいる。米Nexsanは,こうした機能を最大限に活用するベンダーなのだ。

きょう体に高密度でディスクを装填することもウリにしている。

 その通りだ。SATAの高密度実装ストレージ「SATABeast」や,2008年12月16日に国内で販売開始したばかりのSAS/SATA共用版の高密度実装ストレージ「SASBeast」では,高さ4Uラックマウントのきょう体に,冗長化電源/ファン,冗長化RAIDコントローラのほか,42個のディスクを搭載する。しかも,高密度でありながら,振動の低減やエア・フローの確保などによる冷却効果により,ディスク・ドライブの信頼性を確保できている。

 振動の低減は,2個のディスク・ドライブを逆向きに重ね合わせるというもの。こうすることで,ドライブ内部のディスク・プラッタの回転方向が逆になるため,振動を打ち消しあう。これにより,ディスク・ドライブの寿命が延びる。しかも,ディスク・ドライブの面のうち,金属で覆われた側をディスク・セットの両サイドに配置することで,エア・フローによる冷却効果が打ち消されることがない。

 エア・フローの確保は,前面吸気,背面排気の構成を採用しつつ,背面側に電源を配置し,前面側にディスクを配置し,エア・フローに関与しない底部にIC基盤を配したデザインによる。さらに,2個のディスク・ドライブのセットを,19インチ・ラックの幅に7セット(14ドライブ)だけ縦型に置く。これにより,前面吸気がディスク・ドライブの間にできた間隔を通り抜けて背面側へと抜ける。