米国のコンサルティング会社、エンバイロセルの創始者で、主に小売企業を対象に顧客行動分析によるマーケティング手法に取り組んできたパコ・アンダーヒルCEO(最高経営責任者)に日本の小売業の課題などを聞いた。

 アンダーヒル氏は徹底したフィールドワークで顧客の行動や思考パターンを解明する取り組みで知られる。2001年に日本でも発刊された『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』(早川書房)は、全米で200万部以上を売り上げた。顧客にスターバックスやマクドナルド、ウォルマート・ストアーズ、ホームデポなどの米小売業を抱える。日本でも、著名な日用品メーカーと10年以上の付き合いがあるという。また、博報堂のフェローも務めている。

(聞き手は、西 雄大=日経情報ストラテジー)


エンバイロセルCEOのパコ・アンダーヒル氏。博報堂のフェローも務めている

約30年間にわたって年間5万~7万人を調査する顧客行動分析に取り組んでいるが、インターネットが普及したことで調査手法にも変化があるのではないか。

 調査のやり方そのものは変わっていない。ただし、インターネットが普及したことで顧客に大量の情報が提供されるようになり、購入の判断材料が増えたことは確かだ。データ収集や分析の道具も進化した。だが、私はどのような仕事を受けるにしても、データではなく現場を大事にしている。耳と目をフル活用することで、まるで偵察衛星のように様々なことが見えてくる。

顧客行動分析の成功例にはどのようなものがあるのか。

 ある食品スーパーマーケットの顧客行動調査に取り組んだ結果、商品陳列の角度が顧客の購買喚起を妨げていることが分かった。顧客が歩く導線からは陳列棚の商品が目に入りにくいと感じたので、商品を15度ずらして見せることを提案し、売り上げを伸ばした事例がある。こうしたことは定量的なデータだけではつかみきれない。実際に現場を調査することで見えてくるものだ。

日本の小売業についての印象は。

 日本の小売企業を見ると、女性のマネジャーが少な過ぎることが問題点だ。顧客が女性であるにもかかわらず男性が中心となって企画し、経営している企業が目立つ。

 男性と女性とでは購買行動に明らかに違いがある。女性は、特に用事がなくてもウインドーショッピングのように長い時間をかけて店を回る傾向がある。だから購買を増やしてもらうには、女性の気持ちが分かる女性幹部が必要だろう。米国の事例だが、実際に私の顧客の中で、女性下着を販売する企業が3分の2の幹部を女性に入れ替えたことで売上高が伸びた企業がある。

 米国の金融市場の混乱をきっかけに、消費者の行動は変わりつつある。この20年間は、高級品をいかに買ってもらうかが大きなテーマだった。中流層も高級品をこぞって買うようになってきたことが背景にあった。しかし今後しばらくは消費意欲が冷え込み、中流層も本当に必要なものしか買わなくなる。こうした状況を踏まえると、日本企業は先ほど指摘した問題点を早急に解決し、もっと消費者のニーズに密着しなければならない。

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