あいまいな要件定義は問題,ビジネスモデルの変革が必要

システム開発契約やソフトウエア開発を巡るトラブルに詳しい弁護士として知られる。数多くのトラブル案件にかかわった経験を基に、要件定義の重要性を指摘する。要件定義の支援を専門に手掛けるコンサルタントの育成と開発プロセスの透明度向上で要件定義の質を高めることが、システムに関するトラブルを減らすために有効だと明言する。

システム関連のトラブルが、訴訟に発展するケースが増えています。

 一般的に、システム関連のトラブルの争点は、いくつかに分類することができます。

 契約が成立したかどうかという契約の正否に関するものが一つ。それから追加契約したかどうかあいまいなままに、ずるずる仕様を変更してしまって結局、きちんと契約していたかどうかで争うものがあります。

 このほかに、開発したソフトウエア開発の品質の問題、あるいは成果物の著作権の帰属、第三者の知的財産権を侵害しているかどうか、といったことがよく争点になります。

数種類に整理できるのですか。

 去年、日弁連(日本弁護士連合会)のコンピュータ委員会で、「ソフトウェア開発に関する法的紛争処理について」という冊子をまとめました。この冊子をまとめる過程で、ソフトウエアの開発と契約に関連してどんな紛争があるのかについて、数十の判例を選んで争点を調べたのです。

 相当の数の判例を分析しましたから、紛争の実態を相当程度までは分析できたのではないかと考えています。

システム関連のなかでも開発に関しては、仕様変更をめぐるトラブルが多いと感じています。

 本来、システム開発を請負う場合には、要件定義をきちんと済ませてから、開発をスタートさせるものです。要件定義の内容が債務の内容であることは、法律家の立場からいえば、たぶん疑義のないことなんですが、これをやらずに開発費を決めているユーザーやベンダーが少なくないのです。

 きっちりと要件定義することは、開発のトラブルを防ぐために非常に重要です。

確かに、あいまいな要件定義が原因で失敗するプロジェクトは多いといわれています。これといった解決策が見つからないのが現実です。

 この問題を解決するためには、要件定義作成の支援から開発、運用まで同一のベンダーが契約して、全体で収益を確保するというビジネスモデルを変える必要があります。この過程で契約書が役に立つんです。

 十分な説明とリスクの開示を行い、ユーザーが正確に認識したうえで契約し、適正なコストを負担する。これを実現する透明性の高い仕組みがない限り、ソフトウエアに関する紛争はなくならないでしょう。

藤原さんは、経済産業省が2007、2008年に公表した二つのモデル契約書の策定にも協力されました。

 透明性の高さを実現するのは簡単ではないのです。二つのモデル契約書は契約段階から透明性を高めることを目指しています。

 特に2008年に発表されたモデル契約書に関しては、基本契約に加えて業務の内容に応じた個別契約書を結ぶ形式を採用しました。要件定義の支援業務についても、準委任で個別契約を結びます。