2008年10月に発売された『質問会議~なぜ質問だけの会議で生産性が上がるのか』(清宮=せいみや=普美代著、PHP研究所)が、企業の人事担当者やマネジャーの間で注目を集めている。「“質問”と“答え”だけで会議を進行する」「自発的に意見を言うことを禁止する」という独特の会議術を提唱している。「アクションラーニング」で知られるマイケル・J・マーコード氏の理論をベースにしたものだ。著者であり、ラーニングデザインセンター(東京・港区)の代表にあたる清宮氏に話を聞いた。

(聞き手は清嶋 直樹=日経情報ストラテジー


『質問会議~なぜ質問だけの会議で生産性が上がるのか』(PHP研究所)の著者である清宮普美代氏

“質問会議”とは何ですか。

 「発言は、必ず“質問”か、それに対する“答え”でなければならない」「自発的に意見を言うことは禁止する」というルールで運営する会議のことです。参加者のコミュニケーションを促し、会議の生産性を上げる効果が期待できます。日本では、変革をしなければ成長や効率化を望みにくい業界や、目先の業務に追われがちで手間がかかる改善手法をしにくい営業現場などで採り入れている事例が多いようです。

なぜ質問会議で生産性が高まるのですか。

 参加者は「質問してください」と言われると、ほかの人の発言をよく聴くようになります。自分の質問に対する答えにも注意深く耳を傾けることでしょう。自然と参加者の集中力が増し、会議のテーマに対する共感も高まります。

 質問会議では、必ず参加者の1人をファシリテーター(進行役)である「アクションラーニング・コーチ」として明示します。時間は1回60分ぐらいが適当です。一般的な会議よりも参加者の集中力が求められるため、長時間続けると効率が落ちます。

 会議と行動がセットになっていることもポイントです。質問会議の終盤では、必ず具体的なアクションプラン(行動計画)を策定します。このあたりは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が採用していることでよく知られる業務改善手法「ワークアウト」(関連記事)に似ています。

“詰問”は会議の生産性を下げる

質問会議における良い質問とはどんな質問ですか。

 質問と“詰問”は全く違います。「今の厳しい市場環境だと、君の言う方法では商品は売れないんじゃないかね?」「新規顧客を当たるべきなんじゃないか。自分は以前○○という顧客リストに当たってうまく行ったが、君はまだやってないの?」などと詰め寄るのは、駄目な質問の典型例です。前提を押し付けているうえに、その人の判断を含んでいて、ほかの人が次の質問を出しにくく、質問会議を停滞させます。

 この場合は、アクションラーニング・コーチが間に入って、「厳しい市場環境だというのは本当ですか?」などと問いかけて前提を確認する必要があります。コーチは役職や先輩・後輩などの立場にかかわらず自由に発言させることも重要です。冒頭で、「自由に発言できる」と宣言したり、上からの立場で意見を述べる人は退場させたりする工夫も必要です。

上司が主導する会議とは違うのですか。

 マネジャー(上司)は多くの場合、過去のプレーヤー(部下)としての実績が認められてその地位に就いています。しかし、昨今の市場環境は変化が激しく、インターネットの普及や業界再編などによって、自社の主力商品が突如として売れなくなることがよくあります。この環境下では、上司が部下に対して過去の経験を基に“答え”を与えても、うまくいかないことがあります。さらに部下の立場からすれば、やらされ感がある上に、上司の指示通りにしても成果が上がるとは限らず、疲弊してしまいます。

 質問会議では、参加者は自発的に意見を言えないルールです。特に上司は、当初は欲求不満が募ります。慣れるまでは一種の「ゲーム」だと思って取り組む必要があります。だんだん慣れてくれば、“声の大きい人”が自分の意見を押し付けるよりもいい考えが出ることが実感できるはずです。