「企業システムは、開発する対象からコンポジション(組み立て、あるいは合成)する対象へと移る」。米ガートナーでアプリケーション戦略やIT調達に関するリサーチを担当し、SOA(サービス指向アーキテクチャ)について詳しいアンディー・カイト氏はこう主張する。同氏が主張するコンポジションとは何か。次世代の企業システム像とともに聞いた。

(聞き手は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)

これからの企業システム構築に不可欠だと主張するコンポジションとは、どのようなものか。

米ガートナー リサーチ、フェローのアンディー・カイト氏
米ガートナー リサーチ、フェローのアンディー・カイト氏

 コンポジションとは、すでにあるソフトウエアや、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などのを組み合わせてアプリケーションを構築することを指している。これまでの開発作業と対比する概念として提唱している。

 開発はプログラマ、すなわちソースコードの作成者が主体になって進める作業だ。作ることが目的の中心になる。そこでのビジネスプロセスは、ソースコードに暗示的に埋め込まれ、改変は困難だ。

 これに対し、コンポジションでは、ビジネスアナリストやアーキテクトといった役割をもつ担当者が主体となって進める。ソースコードではなく、ビジネスプロセスを示した図(モデル)を扱う。モデルは1回作るだけでは意味はなく、それを使いながら絶えず変更することで価値を増す。開発からコンポジションに移行するということは、作ることよりも使うことに、より重要性があるということを意味している。

SOA(サービス指向アーキテクチャ)とは、どう関係するのか。

 SOAはそもそも、コンポジションを前提にしたアーキテクチャである。しかし、これまでは、企業内システムを対象に議論してきたため、企業は“作る(開発する)”という概念から、なかなか脱却できずにいた。しかし今は、社内のソフト/サービスだけでなく、Web上に自然発生的に登場している各種サービスを企業が利用することも不思議ではなくなってきた。それほど、作ることよりも利用することの重要性が高まってきたわけだ。だからこそ、コンポジションを強調しているのであり、SOAを否定するものでも、代替するものでもない。

コンポジションへ移行には意識改革が不可欠

開発からコンポジションに切り替えることは、それほど難しいことなのか。

 その通りだ。私は企業システムの発展順序を、6段階に規定している。最終段階を「動的なコンポジション」と呼んでおり、その一つ前が「モデル化されたプロセス・コンポジション」と呼ぶ段階だ。この段階に到達するためには、企業は開発作業からコンポジション作業へ移行できなければならない。その移行を成功させるには、大きなジャンプが必要だと考えている。

 ジャンプすべき課題は大きく二つある。一つはサプライサイドの問題だ。コンポジション可能なサービスの提供者が出てこなければならない。多くの効果的なサービスが必要になる。もちろん、SLA(サービスレベル契約)といった契約的な問題もクリアになっていることが前提だ。

 もう一つの課題は、ユーザー企業の意識改革だ。実は、こちらのほうが問題は大きい。開発者とアーキテクトがこれまでの作業の進め方を大きく変えなければならない。とかく開発者はコーディングしたがるものだが、それを、「外部のサービスを組み合わせればいいんだ」と、意識改革をうながす。その実行には、CIO(最高情報責任者)のリーダーシップも試される。

大半の企業がその段階にいたるまでには、どの程度の時間がかかるのか。

 10年のスパンで考える必要がある。非常にゆっくりとしたペースで進むだろう。2010年から2020年の間までには、多くの企業がコンポジションを取り入れるようになるはずだ。