行動支援型や融合サービスでまだまだ成長できる

2008年4月に「新ドコモ宣言」を打ち出し,既存顧客重視の戦略に大きく舵を切ったNTTドコモ。国内の携帯電話市場は成長期から成熟期に移りつつあり,端末販売台数の落ち込みでその傾向がいよいよ顕著になってきた。こうした状況で,最大手のNTTドコモは持続的な成長に向けた活路をどこに見いだすのか。山田社長に端末戦略や海外戦略を聞いた。

2008年4~6月期の携帯電話端末の販売台数は前年同期比2割減だった。

 国内の携帯電話市場が成長期から成熟期に移ったことで,当社は「新ドコモ宣言」を打ち出して戦略転換した。端末の販売台数は減少すると考えていたが,20%も落ち込むとは想定していなかった。この要因には当然,端末販売方式の見直しが挙げられる。端末を4万円や5万円で販売するので,ユーザーの買い控えがどうしてもある。

 ただ,2008年4~6月期はKDDI(au)がまだ端末販売奨励金を投入して端末を安く販売していた。それにもかかわらず,国内全体の販売台数が落ち込んだのは,やはり景気の影響もあるのではないか。当社に関しては端末の販売台数が落ち込んでも,その分だけ販売奨励金が減少するのでそれほど苦しくはない。だが,端末メーカーと販売代理店は大きな影響を受けるので,対策を考えなければならない。20%減の状況が今後どこまで続くのか,しっかり注視する必要がある。

端末メーカー向けの対策には,どのようなものがあるのか。

山田 隆持(やまだ・りゅうじ)氏
写真:的野 弘路

 一つは新端末の投入サイクルを見直すことが挙げられる。これまでは6カ月ごとに新端末を投入していたが,これでは開発コストがかさむ。最新機能を求めるユーザー向けには現状の6カ月サイクルを続けるとしても,法人向けやシニア向けの端末は1年ごとでも構わないのではないかと考えている。

 もう一つは2009年後半に予定するオペレータパックの投入だ。あらゆる端末に共通する機能とNTTドコモ固有の機能(オペレータパック)に分けて端末を開発することで,端末メーカーは海外に進出しやすくなる。オペレータパックは海外の端末メーカーが日本に参入しやすくする狙いもあるが,これを契機に日本の端末メーカーの海外進出を後押しできればと考えている。

今後の携帯電話の契約数は大幅な増加を見込めそうにない。NTTドコモ自身はどのような成長を描いているのか。

 成熟期,成熟期と行き止まりのように言われるが,そこまで悲観的に考えなくても良いと思う。あくまで契約数が成熟期に入ったのであり,機能やサービスは今後も進化し続けていく。

 携帯電話の特徴には「個人認証」や「位置情報」,ユーザーが24時間肌身離さず所持している「リアルタイム性」などがある。これらの特徴を活用すれば携帯電話はまだまだ成長できる。

 ネットワークの高速化で動画の利用が進めば,定額サービスの契約数が増えてARPU(1契約当たりの月間平均収入)の向上を期待できる。「行動支援型」や「エージェント型」のサービス,自動車や情報家電,放送,固定通信などとの融合サービスもある。

 確かに今後は新規の契約があまり増えないかもしれないが,新しい機能やサービスが登場すれば端末の買い替えは進む。端末の販売台数が増えれば,メーカーや販売代理店にも良い結果につながる。ユーザーが端末を買い替えたくなるような魅力的な機能やサービスをいかに提供できるかが今後の鍵を握る。

行動支援型やエージェント型のサービスの実現には「ライフログ」(ユーザー個人の生活の中で生まれる様々な行動履歴データ)の収集が不可欠になる。

 ライフログの収集はプライバシの問題があるので一足飛びに実現できるわけではないが,今後重要になる。例えば午後3時から5時までの間に渋谷にいる人の年齢層の分布が分かれば,マーケティングに役立つ。携帯電話がまさにこれを実現できる。もちろん,特定の個人に結びつくような利用があってはならない。このため,年齢層や性別といった全体の動向を活用できないかと考えている。

具体的には,どのようなサービス・イメージになるのか。

 現在,いろいろと検討中だ。例えばユーザーが銀座を歩いているとする。個人認証と位置情報でそのことは分かるので,「地方の物産展に興味がある」と登録したユーザーに「○○百貨店で○○の物産展が○月○日まで開催されています」といったメッセージを送る。さらに携帯電話に届いたメッセージで商品を値引きするとなればユーザーはうれしいし,商品の販売側にも効果的な宣伝になる。

 ただ,こうした情報がユーザーにたくさん届くと迷惑メールになってしまう。この問題をどう解決するかが難しい。位置情報を活用した単純な行動支援にとどまらず,もっと高度に洗練されたエージェント機能が不可欠になる。

 エージェント機能は2008年の冬モデルから搭載するが,徐々に高度化,洗練化させていくつもりだ。最終的には,携帯電話が私設秘書となって必要なときに必要な情報がユーザーに届く世界を目指している。

 当社の契約数は約5300万件あり,日本の総人口の半分近くに当たる。これだけの人数の行動パターンが分かれば,都市計画や環境問題にも役立つかもしれない。個人個人の動きではなく,全体の動きを見ることで,社会に貢献できればと考えている。

2008年の冬モデルではどこまで実現できるのか。

 詳細は話せないが,例えば電車で通勤するユーザー向けに,事故による運転の見合わせや遅延などの運行情報を朝一番で配信することを考えている。もちろんサービスを利用するには電車通勤であることを登録しなければならず,女性は情報の登録に抵抗があるかもしれない。ただ,この点に関してはユーザーから信頼を得られると信じている。

>>後編 

NTTドコモ代表取締役社長
山田 隆持(やまだ・りゅうじ)氏
1948年生まれ。73年に大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻を修了し,日本電信電話公社(現NTT)に入社。ネットワーク事業本部担当部長,技術企画本部担当部長,関西総支社設備企画部長などを経て91年7月に大阪中央支店長。その後,93年7月企画室経営計画担当部長,97年4月再編成室担当部長,99年1月西日本会社移行本部設備部長を歴任し,99年7月にNTT西日本の設備部長。2000年7月に理事設備部長,2001年6月に取締役設備部長,2002年6月に常務取締役ソリューション営業本部長。2003年6月にNTT持ち株会社代表取締役副社長,2007年6月にNTTドコモ代表取締役副社長を経て2008年6月にNTTドコモ代表取締役社長に就任した。趣味はテニス,ゴルフ,スキー,尺八。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年9月30日)