マイクロソフトは,経済的に困難な状況にある女性や,起業を目指す女性をITで支援する「女性のためのUP(Unlimited Potential = 無限の可能性)プログラム全国版」の活動をしている。この女性のためのUPプログラム全国版では,ITスキル習得機会の提供と,ITを活用した起業支援を活動の2本柱として取り組んでいる。この支援活動により,これまでに14人の女性が起業を実現したという。具体的な活動内容について,マイクロソフトの法務・政策企画統括本部 政策企画本部 社会貢献部 社会貢献コーディネーターの田仲愛氏に話を聞いた。

(聞き手は,羽野 三千世=ITpro


マイクロソフトは2006年1月から「女性のためのUPプログラム全国版」に取り組んでいますが,女性にフォーカスした活動を始めたきっかけは何でしょうか?

写真●マイクロソフト法務・政策企画統括本部 政策企画本部 社会貢献部 社会貢献コーディネーターの田仲愛氏
写真●マイクロソフト法務・政策企画統括本部 政策企画本部 社会貢献部 社会貢献コーディネーターの田仲愛氏
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 きっかけはDV被害者からのIT支援を求める声でした。2001年に日本でDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)が施行され,多くのDV被害女性がシェルターに避難しました。シェルターの女性たちが経済的に自立するために職には就く必要がありますが,ITのスキルが無いために就職できないケースが多く,被害女性や被害者を支援するNPO(非営利組織)からITの研修を行ってほしいという声が上がりました。

 そこでマイクロソフトがIT企業として,IT研修を通じて被害女性を支援しようと,2003年からDV被害女性を対象としたIT支援の取り組みがスタートしました。当初は,DV被害女性のみを対象として首都圏を中心にIT研修を行っていましたが,2006年から支援対象をシングル・マザーなど経済的に困難な状況にある女性全般に広げて,活動を全国展開しました。この2006年1月からの活動を「女性のためのUPプログラム全国版」と呼んでいますが,それ以前から女性にフォーカスしたIT支援を行っていたわけです。支援内容も,はじめは就労支援のためのパソコン講座が中心でしたが,2007年からは女性の起業を支援する取り組みも行っています。

女性の起業を支援する理由を教えてください。

 女性は,家事や介護,子育てなどのために,企業に就職することが困難なケースがあります。このため起業のニーズは高いのです。しかし,起業資金や事業運営に必要な知識の習得機会などの面で,女性は男性より恵まれていません。そこで,マイクロソフトは,ITを活用した起業を応援する「女性起業家支援事業」に取り組んでいます。

女性起業家支援事業の具体的な取り組みについて教えてください。

 2007年6月に,財団法人横浜市男女共同参画推進委員会および横浜市と共同で「女性起業UPルーム」を開設しました。同ルームには専門知識を持ったナビゲーターが常駐し,無料で企業に関する相談や情報検索ができます。また,起業のノウハウや,ITの活用方法についての有料セミナーを開催しています。さらに,具体的な事業プランを持つ女性が実際に起業するまでを支援する「起業家たまご塾」では,事業のプランニングから,ネット・ショップのサイトの作り方,販促方法に至るまでをサポートします。2007年6月から2008年2月の第1期でセミナーまたは起業家たまご塾に参加した70人のうち,14人が起業を実現しました。

マイクロソフトはこの女性起業家支援事業に具体的にどのように関わっているのですか?

 マイクロソフトは女性起業UPルームの開設・運営資金やソフトウエアを提供するとともに,セミナー講師向けにソフトウエア研修を行っています。具体的にはビジネス用のWebサイトを作成するためのソフトウエア「Microsoft Office Live Small Business」の使い方を,セミナー講師に教える研修を開催しました。この活動において,マイクロソフトは財団法人横浜市男女共同参画推進委員会および横浜市のパートナーという立場です。マイクロソフトは,本業でもパートナー企業との連携により成長してきました。パートナーと連携して問題解決をしてきた経験を,この女性起業家支援のような社会貢献活動にも生かしているわけです。

セミナーを受講した女性たちは,実際にどのようなビジネスで起業したのでしょうか。

 起業家たまご塾一期生のさくまりえこさんは,クマのぬいぐるみのネット・ショップ「うちの子がかわいく見えるクマ」をオープンしました。さくまさんの息子さんがぜんそくだったことをきっかけに,ぬいぐるみにはアレルギーの原因となる素材を一切使用せず,清潔に使えるよう家庭で洗える素材を使っています。


 同じく一期生の三宅あすかさんは,京都の手描き友禅工房で修行した腕を生かして,手描き友禅のこども服ブランド「あっか」を立ち上げ,ネット・ショップをオープンしました。

女性のためのUPプログラムの今後の展開を教えてください。

 女性の起業を支援する取り組みとして,2008年から盛岡と山梨で,地元で採れた農作物をネット販売する支援を行っています。盛岡では,果物や野菜のネット販売を仲介するポータル・サイトを制作中です。この農漁村の女性を対象にした取り組みは2009年以降も活動拠点を拡大していく予定です。また,2009年からは若年層の未就業女性,いわゆるニートと呼ばれる女性に対してもITスキル習得機会を提供していく予定です。