「中期計画の達成状況は現在5合目といったところ。副社長時代にまいた種がようやく成果につながり始めた」。NTTデータの山下徹社長は2007年度にスタートさせた3カ年の中期計画の進捗状況に自信を示す。足下の業績も堅調だ。2008年度の中間決算は2ケタの増収増益を達成。中期計画で掲げた売上高営業利益率10%や海外売上高1000億円もみえてきた。だが、山下社長は手綱を緩めない。「数値目標ももちろんだが、顧客満足度の向上にも力を注ぐ」と決意を語る。
(聞き手は星野友彦、大和田尚孝、吉田洋平=日経コンピュータ)

2007~09年度の中期計画の折り返し地点を迎えた。後半戦に向けた抱負は。

NTTデータの山下徹 社長
NTTデータの山下徹 社長
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 浜口(友一・前社長=現在は取締役相談役)の時代から顧客満足度の向上に最優先で取り組んできた。中期計画後半の1年半もこれに変わりはない。独自に調査している顧客満足度の点数を10点満点中の7点にする目標を掲げている。以前は6点近辺で伸び悩んでいたが、直近では6.7点まで来た。

 中期計画は2009年度に営業利益率10%の数値目標に掲げている(本誌注:2007年度は8.9%、2008年度中間決算は8.7%)。だが営業利益率が高まっても、顧客満足度が下がったら意味はない。

 顧客満足度と利益率は両立しないとの見方もあるかもしれないが、それは違う。顧客満足度が上がれば、利益率も必ず高まる。考えてみれば当然のことだ。お客様から「納期が遅れた」「品質が悪い」といった不満がでるときは、必ず当社側のコストも増える。計画通り品質と納期を確保するために、余分なコストがかかるからだ。逆に品質も納期も問題がない場合は追加コストも必要ないし、お客様の満足度も高い。

 今後はさらに上を目指したい。ブランド物のバッグは類似品よりも高価だが、消費者はブランドを信頼して購入してくれる。そこで期待通り、期待以上の満足を与えれば、また次も買おうとなる。

 当社もそれを目指している。「他社なら10億円でできると言っているが、20億円出してもNTTデータにお願いしたい」という企業になりたい。

9月に発表した新ブランド戦略では「お客様の変革を実現する『変革パートナー』への取り組みを強化する」と宣言し、コンサルティング力の強化などを打ち出した。

 お客様の要求は変わりつつある。当社は一般に「システムインテグレータ」に分類されているが、もはやお客様はそうは見ていない。調べてみると、半数近くが当社を「事業パートナ」や「ITパートナ」と見てくださっていることが分かった。

 これは衝撃だった。自分たちも「システムインテグレーションだけの企業ではありません」とメッセージを出していたが、ここまで浸透しているとは思っていなかった。

 当社をITパートナととらえているお客様の満足度はシステムインテグレータと認識している顧客の満足度よりはるかに高い。ここに当社の優位性があるはずだ。

 今後は事業パートナとしての自覚を高めていく。コンサルタントとしての能力を上げていくことも重要になる。「脱システムインテグレータ」をキーワードに取り組んでいく。

 もちろんSIをしないという意味ではない。SIもできるITパートナ、事業パートナということだ。そうなれば他社にはない付加価値を提供できる。

中期計画では営業利益率10%、海外売上高1000億円を目標に掲げている。達成状況はどうか。

 中期計画の達成状況は5合目くらいと考えている。去年が若干スロースタートだったが、今年になってこれまでに仕込んできたものが開花しつつある。

 昨年度180億円程度だった海外売上高は、M&A(合併・買収)により1000億円がみえてきた。今年1月に買収した独アイテリジェンスも、今年8月に買収した独サークエントも2年前から買収に向けて動いていた。アイテリジェンスに関しては社内の会議で一旦は買収を否決されたこともあったほどだ。だが粘り強く動き、買収にこぎつけた。

営業改革や開発改革も目標に掲げていたが。

 営業改革は着実に進みつつある。浜口(前社長)が副社長時代に着手した施策だから、もう開始から5年になる。人材育成、ノウハウ共有で成果が見え始めた。

 一方の開発改革は自分が副社長のときに始めたもの。実を結ぶにはもう少し時間がかかるだろう。 

 それでも少しずつ形になってきた。例えば、プロジェクト管理手法の社内標準「PMワークベンチ」は今年10月から原則すべての新規プロジェクトに適用を義務付けるところまできた。

 PMワークベンチを使うと個人差がなくなり、安定的なプロジェクト管理ができる。進捗が見えるので仕事量の負担が偏らないし、過去のデータと比較できる。結果的に不採算案件の減少につながる。

 開発手法の社内標準も作り始めている。「SDワークベンチ」と呼ぶもので、中国・北京にある北京NTTデータが中心となって開発を進めている。今はモデルプロジェクトで先行適用をしている段階だ。ほかにも保守用のワークベンチを作る計画もある。

内製率の向上も課題として挙げていた。どのような対策を考えているのか。

 現在、システム開発の約7割を社外に委託している。金額にして二千数百億円ほどだ。そのうちの半分をグループ会社に依頼している。依頼を受けたグループ会社は、さらにこのうちの6~7割を外注している。

 アクセンチュアなどは内製率がほぼ100%と聞いている。利益率も十数%と当社よりも高い。このため「NTTデータは生産性が低いのではないか」とよく言われる。

 だが当社の外注先が5~6%の利益上げている。この利益を積み上げていくと、全体の利益率は十数%に達する。

 当社を含め日本のソフト開発の生産性が低いということは決してない。利益率の低さは多重下請け構造が原因だ。この構造のままで内製と同じ利益率を出すのは難しい。

 内製率は分母、つまり全体の開発量を下げれば必然的に高まる。そこでコーディングを自動化する手法の開発を進める。これが進めば開発量自体が減るので外注に頼る必要がなくなる。品質もよくなる。こういった取り組みをさらに進めるためにも、開発者向けのSDワークベンチなどが重要となる。