NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイル,イー・モバイルと,4社の携帯電話事業者が台湾HTCの製品を投入するなど,国内の携帯電話市場でスマートフォンの存在感が増しつつある。こうした状況を国内メーカーはどう分析しているのか。機種数は少ないが,国内や海外向けにスマートフォン(写真1)を投入している東芝の謝 偉利氏に国内スマートフォン市場の展望を聞いた。
これまで海外と比べて日本国内でスマートフォンの普及が進まなかった理由は。
歴史を見るとスマートフォンのルーツは,米国で流行したPalmのようなPDA(携帯情報端末)に行き着く。米国ではシステム手帳でスケジュールを管理する土壌が元々あり,PDAはそうした要望に応えた。
その後,BlackBerryのような電話と融合したスマートフォンが登場した。PDAの機能に加え,QWERTYキーボードでビジネスメールが送受信できるという機能で受け入れられた。
午後5時になると帰宅して,家族と過ごすという米国人は多い。そこで会社を離れてもメールが読める機器が重宝されたというわけだ。企業には,ExchangeやNotesが浸透しており,BlackBerryをサポートしやすい環境も整っていた。
日本ではモバイル環境といえば,パソコンを指すことが多い。パソコンに通信カードを入れて使うため,スマートフォンに移行が進まなかった。それに加えて,セキュリティや個人情報保護の問題もあり,なかなかモバイルを活用しようという意識にならない。一部には,FAXすればいいという文化から抜け出せていない会社もある。
日本にはiモードのような携帯電話があったことも一因ではないか。
iモードのような携帯電話は,あくまでもプライベートのメールのやり取りに使われる場合が多い。ビジネスメールを受信し,添付ファイルを見るといった海外のスマートフォンのような使い方とは違う。
複数のスマートフォンが登場し,利用方法はどう変わっていくか。
iPhoneやBlackBerryなど新しい端末が数多く登場し,欧米ではスケジュール管理,メールの用途で市場が伸びていくだろうが,日本ではその2つだけでは伸びる要素が少ない。さらなる価値が必要となる。
これまで以上にインターネットセントリック(インターネットに根付いた)な用途を提案する必要がある。ユーザーインターフェースが進化し,より快適にWebブラウジングできるようになれば,ビジネスだけでなく,個人向けでも広がっていくだろう。
Windows MobileやAndroidなど他社と共通のOSを採用すると,ほかの端末と違いが少なくなり,差別化しづらくなるのでは。
端末のOSが何かということは先端ユーザーには大切かもしれないが,一般の人には関係ない。OSという土俵は同じでも,製品の軸の取り方や,狙うマーケットは他社と異なるはずだ。台湾HTCはWindows Mobile端末で独自のユーザーインタフェースを作っているが,そうした差別化の要素は狙ったターゲットに合わせていくつか出てくるだろう。今後は,よりパソコンに近いインタフェースが出てくるかもしれない。
AndroidのようなオープンOSを採用すれば端末開発のコストが減るのでは。
確かにコストは減るが,継続的なメンテナンスについて誰がどう保証するかという問題が不透明だ。Androidが完全に信頼できるものなら問題ないが,収益なしてフリーで配布するものに対しては,米グーグルもしっかりバックアップできないのではないか。NTTドコモなどが後押しするLiMoならまだ安心感があるが,Androidはよく読めない。もちろん,敬遠しているわけではない。我々がAndroid端末に参入する可能性もある。それは,国内のどのメーカーでも同じではないか。
スマートフォンのターゲットは結局どこか。
誰が選ぶ主体なのかを見極めないといけない。会社が買うのか,個人で買うのか。現在は個人が購入する比率が高いようで,そのために音楽などの機能の搭載が増えている。しかし,もう少しコアバリューをはっきりしないと大幅な伸びは期待できないのではないか。
海外でiPhoneが売れているのは,アップルというブランド力があるから。日本国内ではiPhoneがそれほど売れていないという見方もある。もしそうなら,単にiPodに電話を付けただけと見られており,日本国内においてはコアバリューがないからだろう。