ITインフラをトータルに支える,重視するのは従業員の満足度

保守、運用サービスに、ITインフラの構築設計を加えた三つの領域を中心に事業を進める。これらの分野については、富士通エフサス単体ではなく、富士通グループの中核を担うという。社内の技術力強化にも余念がない。ここで播磨氏が重視するのが従業員満足度だ。現場のやる気を引き出せなければ、継続して企業が成長できないという信念に基づくものである。

就任からほぼ4カ月がたちました。新社長としての抱負をお聞きします。

 従業員の満足度を向上させたいですね。顧客の満足度向上が重要なのはもちろんですが、長期的な成長を考えると従業員の満足度も重要です。従業員の満足度の高さは、受け身の姿勢ではなく自らが積極的に仕事に取り組んでいると思えるかどうかが大きく影響します。

従業員満足度ですか。

 社員が本当に働きがいを感じて、働ける会社じゃない限り、顧客満足度や企業の成長は絶対に続かないですよ。富士通はグループで自律改善運動などを進めていますが、さらに経営陣や幹部を巻き込んだ取り組みを実施していくつもりです。

 手始めとして今年8月に、130人程度の幹部を集めた社内セミナーを開きました。

実際のビジネスにどう関係するのですか。

 CEが担当していた保守のビジネスは絶対に失敗が許されない種類のサービスです。これまでは、決まった手順で正確に作業を進めることが求められてきました。

 ところが最近は、OSやミドルウエアの知識がCEにも必要になって、業務領域がどんどん広がっているんです。現場で気付いたことを基にした提案活動の重要性がどんどん高まっています。現場の社員のやる気、その原動力になる従業員満足度には大きな意味があるのです。

オープン化の進展で、保守や運用にかかわる業務は様変わりしています。

 自分はハード担当です、自分はソフト担当です、といった対応ではお客様の要望に応えられなくなっています。ITインフラに関する基本的な知識をすべて身に付けるのが当然という時代になったのです。

 実際に当社だけで1400人強、富士通エフサスグループでは1700人くらいのSEがいます。CEとSEの世界はどんどん近付いている。

一般にハードウエアの保守事業は、売り上げの減少が激しいといわれます。

 当社ではメンテナンスサービスと言っていますが、ハードの保守サービスだけに依存した従来型の経営には限界が訪れています。そこで、富士通グループ全体の中で何を担うべきかなどを含め、事業戦略を再構築したのです。

 現在、当社は事業分野をインフラインテグレーションサービス、運用サービス、メンテナンスサービスの三つに分けています。インフラインテグレーションサービスというのはITインフラの構築設計のビジネスです。

ITインフラの構築設計を重視しているのですか。

播磨 崇(はりま たかし)氏
写真:柳生 貴也

 インフラインテグレーションサービス、運用サービス、メンテナンスサービスの売り上げは、ほぼ全体の3分の1くらいでしょうか。

 ITインフラの構築設計については、当社が富士通グループの中心的な存在です。昨年には、富士通のインフラSE部隊である共通技術本部の技術者を当社に集約しました。ソフトウエア開発標準の「SDEM」などを手掛けていた300人以上の技術者が、新たな力として加わったわけです。

重要だと分かっていても、ITインフラの構築設計で悩むSIerは多いようです。

 今までは、SEがITインフラを構築設計し、当社のような企業が運用を請け負い、CEが保守を担当するといった形が一般的でした。それぞれのミッションを持った担当者が、自らの役割の中で仕事を進めていたわけです。

 ですが、現場の運用を意識してITインフラを構築、設計しているSEは少ないのです。運用を意識して構築していないために、運用現場でミスが起こっているというのが現実です。

 ITインフラの構築設計から運用、保守まで一貫したサポート体制を提供すれば、お客様は信頼性の高いシステムを利用できるようになります。

ITインフラの設計から保守までの一貫したサポートですか。

 現在は、ITインフラを構築設計できるSEの数が減っているにもかかわらず、システムのオープン化が進んで、運用や保守の難易度が増しているんです。この問題を解決するためには不可欠なことだと思います。

具体的な取り組みの内容をお伺いします。

 ITインフラの構築設計の標準化を進めています。お客様のシステムに合わせたパターンをいくつも用意したり、これまでは数百あったミドルウエアのパラメータ設定を大幅に減らしたりといったことに取り組んでいます。

 富士通本体とも協力して、例えばパラメータの設定項目を500から20くらいまで減らすといったことを実現しようとしているわけです。

ITインフラの標準化ですか。

 OSやミドルウエア、パッケージソフトに関して、これまではお客様の社内でSEが設定していたことを、グループの工場内で全部済ませるようなことも進めています。工場で作業すると、パラメータ設定が間違いないのか、簡単に検証することができる。検証してから出荷していますから、現地に持っていくと、基本的にお客様個別の情報を設定すれば動くわけです。

 一番重要なのは品質ですが、生産性も向上するんですよ。これは富士時通全体の取り組みです。

 野副(州旦氏、富士通代表取締役社長)さんは、「インフラ工業化」というキーワードを使っています。これは、ITインフラの標準化推進を指す言葉です。

保守や運用業務でも生産性の向上は重要なはずです。

 保守の業務のやり方についても議論を始めているところです。例えば当社の中には、障害情報について膨大なデータがある。これらのデータをマイニングして、障害時の原因発見や予防保守を支援できる仕組みを構築しようとしています。

 どんな部品がどのくらいのタイミングで故障するのか、といった情報を基に、部品の交換を進めれば障害発生の確率が下がるでしょう。そうなれば、CEをもっと計画的に配置できる。

 障害が起こったから、現場に出かけるのではなくて、障害そのものを減らそうということです。お客様のところに到着する時間も早くできるし、現地での保守時間を短くすることもできます。

2007年度は売上高が2499億9400万円で、営業利益が75億9700万円でした。売上高が2.5%の減収、営業利益が16.2%の減益です。保守や運用のビジネスが厳しかったということですか。

 違います。当社は富士通グループ全体のITインフラの設計、運用、保守の効率化を進めています。ITインフラについてはITIMAP、運用についてはITSMOPという標準化パターンがありますが、これを改善していくための投資が先行したということです。

投資ですか。

 人員も増えましたし、ツールの開発も必要です。第一段階としての整備は終わりました。2008年度下期から本格的に展開していきますよ。

今後のビジネスについてはどうお考えですか。

 下期がどうなるかはまだよく分かりません。周りが悪いから悪くなっていいという話ではありません。当社には年間目標があります。これの達成に向けて知恵を絞っていきます。

富士通エフサス 代表取締役社長
播磨 崇(はりま たかし)氏
1945年生まれ。68年に早稲田大学を卒業後、同年に富士通へ入社。富士通ビジネスシステム常務取締役、富士通北陸システムズ代表取締役社長、富士通経営執行役常務兼地域ビジネスグループ副グループ長兼SE会社担当などを経て、07年に富士通サポートアンドサービス(現・富士通エフサス)に入社し、代表取締役副社長。08年に代表取締役社長に就任。

(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2008年9月30日)