[後編]日本は“インターネットの次”の技術で勝負すべき

>>前編 

NTTが国内で導入しているNGN(次世代ネットワーク)は,海外展開を目指すことができるのか。

 NGNには電話網の交換機をルーターに置き換えるという側面がある。近年,電話交換機を製造するメーカーは減っている中で,電話網を維持するには,ルーターを使うという考えがごく自然だ。ネットの効率化が進み,ユーザーから見てもコストのメリットがある。インターネットではなく,ルーターを使った電話網だと考えれば,NGNの導入は必然だったと考えられる。

 全国規模のネットワークを維持するなら,信頼性が必要になる。その一つの解が現在のNGNだろう。海外でも電話網の設備が古くなり,交換機の調達が難しくなっている。その中で品質を落とさずにルーターでサービスを継続したいとなれば,日本のNGNが参考になるはずだ。

ただ,アクセス回線に光ファイバを使うなど,日本のNGNは独特の部分もある。

寺崎 明(てらさき・あきら)氏
写真:的野 弘路

 銅線よりも容量が大きく,劣化もしづらい光回線を日本が先進的に整備したことは,海外にも胸を張っていい。

 独特だと思えば,その段階で負けてしまう。逆に独自の技術をバネにして,海外へ投入する知恵を絞るべきだ。発展途上国でも都市部で光ファイバが引かれていくはずだ。そのときに日本がどう対応できるかが重要だ。

高品質な通信基盤を生かした,アプリケーションの登場が期待される。

 アプリケーションについては,グーグルなど海外の企業が先行している。だが,日本は各ユーザーを結ぶ高品質な通信基盤がある。これをテストベットとして利用すれば,先進的なアプリケーションを開発できるはずだ。

 例えば,海外の技術者を取り入れて,日本で開発してもらう手もある。米国のシリコンバレーでも,米国出身ではない技術者が多く働いている。異なる発想を持った一流の技術者と共同で開発するという考え方だ。

 情報通信サービスは,明確なニーズがあるから普及するものではない。そもそも携帯電話が,ここまで急激に伸びるとは誰も想像できなかった。だからこそ,まずサービスの提供を実現して,その結果を見るべきだ。

 日本の強みである先導的な技術を海外に展開する方法もある。FeliCaに代表される3G携帯と親和性の高いアプリケーションをトータルシステムとして戦略的に売り込んでいくべきだ。

 総務省としても,GSM機能が付いた3G携帯端末の国際展開に向けて,横須賀リサーチパークに端末検証用の施設を構築するなど,日本企業の海外展開を後押しする。

NTTはNGNを普及させ,2010年度までに2000万回線を目指すという。

 他国に先行してこれだけの通信基盤があることは,大きな宝だ。問題は,それをどう発展させるかだ。通信サービスとは長い目で見ないといけない。例えば,携帯電話は自動車電話として20年以上の基礎研究を重ねたうえで,世の中に出てきた。デジタル放送も1980年代から取り組んでいる。20~30年という長い努力があって受け入れられた。

 将来に向けた技術開発も重要だ。個人的には,インターネットの次の技術が登場すると考えている。現状のインターネットは有害情報の問題が顕在するなど,完全とはいえない。次があるなら,日本はそこで勝負できる。

 現状のインターネットを構成している機器は,米国企業の製品がほとんど。次は巻き返すという気概が,メーカーなどの関係者には必要だ。

総務省 総務審議官
寺崎 明(てらさき・あきら)氏
1952年生まれ。74年東京工業大学工学部卒業,76年3月東京工業大学大学院修士課程修了。同年4月郵政省(現・総務省)に入省。93年電気通信局電波部電波利用企画課長,94年同移動通信課長,97年通信政策局技術政策課長,99年同総務課長,2000年に北陸電気通信監理局長,01年1月総務省北陸総合通信局長,2002年8月に大臣官房参事官,04年1月独立行政法人通信総合研究所理事,04年4月同情報通信研究機構理事,05年8月総務省総合通信基盤局電気通信事業部長,06年7月同政策統括官,07年7月総合通信基盤局長。08年7月に現職の総務審議官に就任。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年9月5日)