[前編]NGNで「サービス創造企業」へ,鍵はNTTデータとNTTコム

NGN(次世代ネットワーク)の展開に奔走するNTTグループ。その中核にNTTデータで要職を歴任した宇治則孝氏がいる。システム構築事業を長らく手がけた同氏は「NGNは企業情報システムの作り方を変える」と指摘する。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業者も巻き込んで、NGNを新たな情報基盤とする仕組み作りを急ぐ。

3月にスタートしたNGNサービス「フレッツ光ネクスト」は現状、どのようなユーザーが多いのでしょうか。既存のインターネットサービスと社内競合を起こすケースはないのですか。

 3月31日から東京都内の一部でサービスを開始し、7月末から本格的にエリアを拡大し始めました。年度内に主要な都市をカバーし、2010年までにFTTHサービス「Bフレッツ」と同等のエリアまで広げます。現時点のユーザーは大学や個人が中心で、まだ数はあまり多くありません。今後、エリアが広くなってくれば、個人だけでなく、拠点間ネットワークとして利用する企業ユーザーも増えてくるでしょう。

 インターネットとNGNとは対立する概念ではありません。むしろ、積極的に使い分けていくものです。インタ ーネットはセキュリティや品質に難点があります。これに対し、NGNは高いセキュリティを確保すると同時に、通信品質を保証します。インターネットを「一般道路」とすると、NGNは「高速道路」といえます。しかも、実際の高速道路と違って渋滞しません。我々がきっちりとネットワークを管理するからです。

 これからの企業ネットワークは、最高の信頼性が必要な部分は専用線を使い、専用線ほどではないが高い信頼性が必要な個所にNGNを使う。信頼性を重視しないならばインターネットを利用する。こうした使い分けはコンピュータの世界では当たり前ですよね。同様の考え方を企業ネットワークにも持ち込むということです。

SaaS over NGNを訴求していく

NGNの特徴を生かしたアプリケーションとしてどのようなものが考えられますか。

宇治 則孝(うじ・のりたか)氏
写真:小久保 松直

 主なものとしてまずテレビ会議があります。従来のテレビ会議よりも高精細な映像を高速でやり取りできる。1対1のテレビ電話のようなものから、大きな会議室を使うようなものまで、NGNによって映像を使ったコミュニケーションは格段に増えるでしょう。

 二つめはSaaSです。我々は「SaaS over NGN」を提唱し、ユーザーに訴求していくつもりです。SaaSは2010年ころに市場規模が1.5兆円になるとか、ソフトの4分の1はSaaSになるとか、色々な調査予測が出ています。その実現性はともかく、SaaSは間違いなく伸びると思っています。企業のなかの重要な部分に使うためには、NGNの高セキュリティと信頼性が求められるはずです。

 三つめは医療や教育、金融などプライバシーやセキュリティを守らなければならない分野です。遠隔医療は今後もっと普及すると思いますが、インタ ーネットではプライバシーが守れるか不安が残ります。そうした、インターネット上に乗せづらかったアプリケーションをNGN上で実現する動きは出てくるでしょう。

 NGNのアプリケーションは我々が押しつけるのではなく、ユーザーからどんどんニーズが出てくることを期待しています。例えば高速道路ができたことで、物流や旅行などで新たなサービスが創造されてきました。これと同じように、NGNの登場によって新しいアプリケーションが創造されるのではないでしょうか。我々としても積極的に働きかけたいと思っています。

ITとCTの結合が強まる

 その一環として、NTTグループ内ではNTTデータとNTTコミュニケーションズ(NTTコム)に、ユーザー目線でアプリケーションを考えるように指示しています。NGNのネットワークを実際に運用するのはNTT東西ですが、それを使うNTTデータとNTTコムも重要な役割を担っています。最近よく「ICT」(情報通信技術)という言葉を使いますが、NGNではIT(情報技術)とCT(通信技術)が今まで以上に結合します。NTTデータの社員はもっと通信を知るべきだし、NTTコムの社員はもっとITを知るべきと常々言っています。

「SaaS over NGN」について、具体的にどういった取り組みをしていくのですか。

 まずはSaaS形態でソフトを提供する事業者に向けて使い勝手の良いSaaS基盤を提供します。例えば、認証や課金の仕組みや、データセンターの提供などです。そのために今、データとコムで連携してSaaS基盤サービスの提供を検討しています。NTTグループと一緒にSaaS事業をやりたいという事業者に対して総合的な窓口も設ける予定です。

 これとは別に、NTTグループのなかで良いアプリケーションがあれば、それをSaaSで提供することもあり得ると思います。

NTTデータとNTTコムとの間で役員の人事交流を図ったのはSaaS基盤提供のためですか。

 今回の提携のためだけに人事交流を実施したわけではありませんが、良い影響はあると思っています。互いに、本当に一緒にやっていこうという機運が出てきていますから。これに限らずNTTグループとしての連携は色々と考えています。グループ会社が持っている知見をうまく集めるのが目的です。組織を再編するわけではありません。今ある組織のなかで連携して、ユーザ ーにワンストップでより良いサービスを提供していきます。

>>後編 

NTT 代表取締役副社長
宇治 則孝 (うじ・のりたか)氏
1973年、京都大学工学部修士課程(電気系)修了。同年、日本電信電話公社入社。総裁室企画室にてNTT民営化関連業務、新規事業開発業務を担当後、88年NTTデータに。新世代情報サービス事業本部長、経営企画部長、法人分野の事業本部長などを経て、2005年代表取締役常務。07年6月NTT(持ち株会社)の代表取締役副社長(技術戦略担当)に就任。1949年3月生まれの59歳。大阪府出身。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年8月1日)