大丸と松坂屋の持ち株会社であるJ .フロント リテイリングは2008年9月、両百貨店のシステム統合を完了した。2007年9月の大丸と松坂屋の経営統合を機に、2008年3月にグループウエアなどを共通化、さらに9月に残りのシステムを統合した。10月7日には松坂屋における過去2年分の顧客の購買履歴情報も統合し、両社を横断した分析が可能になった。

 システム統合の最大の狙いは、松坂屋の収益力(2007年度の連結営業利益率2.8%)を大丸(同4.1%)並みに高めることにある。CIO(最高情報責任者)としてシステム統合を指揮した阪下正敏業務本部システム推進部長に聞いた。

(聞き手は西 雄大=日経情報ストラテジー

J .フロント リテイリング 阪下正敏 業務本部システム推進部長

約1年をかけたシステム統合が完了した。

 阪下 大丸が1998年から取り組んできた営業改革で築いた業務プロセスを松坂屋でも実行するには、基盤になるシステムの共通化が欠かせなかった。そのため、基本的には松坂屋が大丸のシステムに片寄せする方針でシステム統合に取り組んできた。統合が完了したことで、大丸と同様の業務プロセスを構築できる。約30億円の費用がかかったが、これにより松坂屋の営業改革が加速する。(関連記事

統合完了の直前、CIOとしてどのように準備をしたのか。

 阪下 9月2日に店舗のPOS(販売時点情報管理)レジのプログラムを切り替え、仕入れや在庫管理、支払いなどあらゆる仕組みを入れ替えた。1週間前から松坂屋の全店を回って店長や現場担当者と話し合い、当日は名古屋にある松坂屋本社に詰めた。現場の疑問にすぐに答えられるよう、各店舗に設置した対策本部に寄せられる問い合わせを共有できるシステムをあらかじめ構築しておいた。また、数日前からは、対策本部との間をテレビ会議システムでつないで、現場の状況をつかめるようにした。

システム統合を話し合う段階で片寄せできなかった個所もあったのか。

 阪下 今回の目的は松坂屋に大丸流の働き方を取り入れることである。原則として大丸側に片寄せすることは、当初から合意できていた。ただし、ポイント付与など顧客に対するサービスは残さなければならなかった。また、駐車場の割引サービスなど、大丸にはないサービスもあったため、すべて片寄せしたわけではない。

 松坂屋側のシステムの良い点を取り入れたところもある。例えば、ギフトの送付伝票を自動で記載するプログラムだ。大丸の方が文字が小さく見づらかったため、松坂屋の仕組みを採用して改善した。

準備を進めるうえで困難だったことは何か。

 阪下 準備にかける時間が短いことが課題だった。7月はお中元の販売のために売り場の応援に出るなど忙しく、8月の1カ月間しか準備作業に時間をかけられなかった。時間が短いことで、大きく2つの点で注意を払った。

 まず、MD(マーチャンダイジング)システムを統合するのに際し、松坂屋に商品コードを新たに割り振り、売り場の担当者に商品情報を入力してもらう必要があった。取引先名や利益率の情報など、現場にしか分からないものもあったからだ。自動変換できたのは3割に過ぎず、残りは現場で1つずつ条件を確認しながら手作業による入力をしていった。現場は繁忙期と重なったため、7月末ごろまでなかなか対応が進まなかった。遅れているという報告を受けて対策会議を開き、現場から情報を収集して、入力は専門部隊に任せるなど負担を軽減できる対策を打った。

 もう1つは教育だった。松坂屋にとっては、POSの操作や仕入れ方法、管理帳票の見方など、用語を含めて変わってしまう。失敗するわけにはいかないので時間をかけて教育したかったが、なかなか時間を取れなかった。8店舗の従業員を一斉に教育するには講師も足りない。テレビ会議を活用して遠隔教育をした店舗もあった。

システム統合によって、期待していることは何か。

 阪下 松坂屋の営業改革は販売に集中できる体制作りを目指して今年3月から一部店舗で3カ年計画で始まっている。ただし、これまでは部分的で手作業でできる範囲にとどまっていた。システムを一本化したことで、「婦人服が悪い」といった総論ではなくアイテムやブランドごとに大丸と比較できるようになる。営業改革の本当の取り組みはこれからだ。

高島屋とエイチ・ツー・オー リテイリング(阪急・阪神百貨店の持ち株会社)が経営統合するなど業界再編が再び加速する可能性がある。

 阪下 J .フロント リテイリングが今後も他社との経営統合を進めていくかどうかはまだ分からないが、今回のシステム統合の経験によって、我々よりも規模の小さい企業との統合であれば十分対応できると見ている。