米グーグルの携帯電話プラットフォーム「Android」の対応端末が年内にも登場する。この新しい波に乗ろうと,多くの開発者がソフトウエア開発キットを入手し,新サービスの創出に向けて動き始めている。国内開発者の交流を支援する「日本Androidの会」を9月に立ち上げ,会長に就任した丸山氏に,設立の狙いやAndroidの将来展望,クラウド・コンピューティングとのかかわりを聞いた。
Androidは国内の携帯電話市場にどのようなインパクトを与えるか。
Androidのオープンなプラットフォームは,国内の事業者や端末メーカーが海外展開を図る上で,大きなチャンスとなるはずだ。現在,日本の携帯市場には閉塞感がある。既に1億台以上が普及し,これ以上伸びる余地は少なく,シェアの奪い合いをするしかない。
一方,視点を世界に移せば,発展途上国が急激に伸びている。例えば2007年の携帯電話の成長率は,先進国が10%程度なのに対し,アフリカでは60%に近いという統計がある。こうした世界の流れに,日本が取り残されてしまうことを懸念している。
自動車産業は海外展開に成功しているのに,携帯電話では停滞している。この理由ははっきりしている。携帯電話事業者が国内に特化した垂直統合型の事業モデルを構築し,端末メーカーが追従したことだ。フィンランドの携帯市場は日本よりも小さいはずだが,ノキアは世界で成功を収めている。
今後は,台湾HTCなど新興メーカーがAndroidをバネにしてグローバルに成長し,ノキアのような存在となる可能性がある。日本はそうしたチャンスを指をくわえて見ているのかというもどかしさがある。
国内の垂直統合モデルは,端末メーカーにとっては制約も多い。若い開発者は,オープンソースで標準化され,外部と情報共有しながら開発を進めるという世界を知っているのだが,実際の現場は違う。言い方は悪いが,オープン化という側面で日本の携帯電話は遅れている。開発者が外に出て暴れたくても出ていけない。だからこそ,開発者のエネルギーがAndroidに向けて発散される可能性はある。
同様の製品としては,米アップルのiPhoneがあるが,開発者の立場から見ると,iPhoneはオープン化されていないという点で決定的に異なる。先日,勉強会でiPhoneをテーマとした講演を用意したが,秘密保持契約に抵触することが直前に判明したため,発表ができなかった。iPhoneとAndroidの両方を手がける開発者も多いが,自分でビジネスを展開しようとしたら,オープン性を重視しているAndroidに,大きなチャンスを感じ取る開発者が増えている。
(インタビュー実施後の10月1日,米アップルはリリース済みのソフトウエアに対して秘密保持契約を撤廃することを発表した)
「日本Androidの会」の前身となるAndroid勉強会から得たものは。
アカデミックな研究者だけでなく,実際に事業を手がけてきた人たちとのつながりができた。まず一つは組み込み機器の開発者,もう一つはゲームなどのコンテンツの開発者だ。
組み込み機器の開発者は,携帯電話としてではなく,標準的なオープン・プラットフォームとしてのAndroidに期待を持っている。自動車や家電などあらゆる機器にコンピューターとネットワークを組み込むという考えだ。
国内の携帯電話市場のように大きな規模があると,国内で何とか利益が上がってしまう。ただ,IT産業全体の広がりと比べると中途半端で,相対的な地位は低下しているはずだ。携帯電話事業者や携帯メーカーは,もっと大きな市場が創出されつつあるところへ視野を広げるべきだ。
組み込み技術は,ものづくりと密接に結び付いている。日本はものづくりとコンテンツが強い。両方とも世界的に強い競争力を持っている。これらをAndroidの上で組み合わせると,強力な製品が生まれるかもしれない。
Androidという土俵が,ものづくり,コンテンツ,IT技術という三つの要素を融合し,新たな製品を生み出す。こうした取り組みが,日本のIT業界を活性化し,海外展開を推進するきっかけとなるはずだ。
>>後編
丸山 不二夫(まるやま・ふじお)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年8月22日)