『組織を変える「仕掛け」~正解なき時代のリーダーシップとは』(光文社)を9月下旬に発刊したヒューマンバリュー(神奈川県湯河原町)の高間邦男代表取締役に、組織変革の最新動向を聞いた。ヒューマンバリューは組織変革手法を得意とするコンサルティング会社。高間氏は、米国で毎年開催される世界最大級の人材開発イベント「ASTD(米国人材開発機構)国際会議」の開催元、ASTDグローバルネットワーク・ジャパンの理事でもある。組織を構成する各人を心理的にポジティブにする「ポジティブアプローチ」手法などに造詣が深い。

(聞き手は、杉山 泰一=日経情報ストラテジー

今回の書籍でもそうですが、数年前からポジティブアプローチの重要性を訴えています。今の時代、なぜポジティブアプローチが必要なのでしょうか。

ヒューマンバリューの高間邦男代表取締役

高間:組織のリーダーやマネジャーの在り方を見直す機運が年々高まってきているからです。社会経済環境の変化のスピードと複雑さが年々高まっているため、リーダーがメンバーにトップダウンで指示を出し、時には叱咤(しった)して奮起を促すやり方では業績成果が出づらくなってきました。組織の雰囲気を元気で前向きなものに変え、メンバーに主体的に考えさせ、失敗してもいいから素早く挑戦させる、そんなリーダーが率いる組織のほうが成果を出す傾向が強まっているのです。

 前者のトップダウンで指示を出すタイプのリーダーは、大量生産を前提に無理・無駄・ムラを徹底的に省くことを良しとした工業化社会のメンタルモデルだといえます。これに対してメンバーをポジティブにする後者のタイプのリーダーは、インターネットの普及を背景にしたネットワーク社会のメンタルモデルです。

 しかし、現時点ではまだ多くの企業で両タイプのリーダーが混在し、互いに理解し合えない事態が起きています。その解決の糸口になればと思い、今回の書籍を執筆しました。古い世界観しか持たない人たちに「こういう世界観もある」ということを知ってもらいたかったのです。

ASTDグローバルネットワーク・ジャパンの理事として米国の人材開発動向をウオッチなさっています。今年6月に米カリフォルニア州サンディエゴ市で開催された人材開発イベント「ASTD2008国際会議」のキーワードは何でしたか。

高間:印象的だったのは「タレント・マネジメント」という言葉の意味の変化です。5年前のASTD国際会議で使われていた時は「エリート人材をさらに選別して経営幹部などに育成していくこと」を意味しました。ところが今回は「社員一人ひとりをタレント(才能ある人材)と見なしてしっかり育成計画を立てていこう」という意味に変化していました。社会が複雑化する一方なので、たった1人の優れたリーダーではなく、ネットを介してたくさんの人が力を出し合って様々なビジネスの課題に対処すべきだ、という考えに基づいています。

 タレント・マネジメントに関する講演では、南カリフォルニア大学のエドワード・ロウラー教授の講演が特に興味深い内容でした。冒頭でいろんな企業のホームページをスクリーンに映し出し、「どの企業も『人を大切にします』とうたっているが、それは見せかけにすぎない」と語っていたのです。世の中の企業を大別すると、最初から仕事ができる人を採用する企業と、長期的に人を育てていこうとする企業があります。エドワード氏は、前者のタイプの企業が「人を大切にします」と宣伝するのはよくない、と言いたかったのです。

 基調講演で「ティッピング・ポイント」(飛鳥新社)の著者であるマルコム・グラッドウェル氏が、優れた人材には「ピカソ型」と「セザンヌ型」の2タイプがあるという話をしました。ピカソ型は若い時から画期的なアイデアを出せる人材を、セザンヌ型は経験を重ねて試行錯誤を繰り返すうちに素晴らしいアイデアを出せるようになる人材を指します。

 すべての人が何らかの優れた才能を秘めていると仮定するなら、2割の人がピカソ型で、8割の人がセザンヌ型でしょう。そしてセザンヌ型の人なら長期的に人を育てていこうとする企業に入るべきなのです。企業は自社がどちらの人材戦略を重視しているのかを明言すべきでしょう。