ヤフーの検索事業部長が交代した。2008年8月1日,前任の井上俊一氏が百度社長に,地域サービス事業部長だった志立正嗣氏が新検索事業部長に就任した。ヤフーは今後,ポータル(玄関)・サイトの柱の一つとも言える検索事業において,どのような戦略を描いているのか。志立氏に聞いた。

(聞き手は,島田 昇=日経コミュニケーション

地域サービスの基盤は構築した

志立正嗣・ヤフー検索事業部長
志立正嗣・ヤフー検索事業部長
(1998年入社。2002年リスティング事業部長,2006年地域サービス事業部長を経て2008年7月から検索事業部長)

地域サービス事業部長としての仕事を総括すると。

 間違いなくネット完結型のサービスは増えているが、特に地域生活をネットで変えているようなサービスはまだ少ない。例えば,リアルでは存在する地域情報がネット上では極端に少ないため,「喫茶店の日替わり定食は店舗に出向かなければ分からない」というようなことが頻繁にある。

 こうした状況の改善策を丁寧に拡充していくことが,地域サービス事業部の果たすべき役割だ。リアルの生活の至るところで,ヤフーのサービスを提供し,ヤフー利用者の滞在時間や接触頻度を向上させてメディアパワーを高める狙いがある。

 ただ,これは5~10年の長期計画で戦略を練る必要がある。そのため,利用者は何を欲していて、それに対して何をすべきかを掘り起こすところからやり始めた。具体的には中小規模事業者向けIT化支援ビジネスでテレウェイヴなど数社への出資,組織やシステムの見直しなど,今後の本格的な地域サービス展開に向けての基盤構築を行ってきた。

 後任の村田岳彦・地域サービス事業部長は地図情報サービス「Mapion」で地図を軸にさまざまなネットを活用した地域情報サービスを考えてきた人で,理想的な後任を迎えられたと思っている。

検索という行為の本質を見誤るな

7月1日付で地域サービス事業部長から検索事業部長兼地域サービス事業部長,8月1日付で検索事業部長となった。元検索事業部長だった井上俊一・百度社長の退任(関連記事)による急ごしらえの人事にも映る。

 人事の狙いは分からない。ただ,検索事業部長に相当する役職だった頃からやりたかったことも多数あり,再び検索事業部長に就任できたことを喜んでいる。

井上・百度社長は「DNAがポータルの会社はポータル的な経営判断をする」(関連記事)として,検索の会社を求めてヤフーを去った。

 言っている意味が分からない。利用者が望むことの本質は,知りたい何かを探すという行為において,高い満足度を得られるかどうか。DNAがポータル,検索ということは全く関係ないと考える。

世界的にはGoogleの検索エンジンを利用する人が多いが,国内ではヤフーの利用者が多い。ただ,リテラシの高いネット利用者の間では,国内でもグーグルの検索エンジンを利用する傾向があり,「ググる」とは言っても「ヤフる」とは言わない。

 確かにそういう傾向はあるが,そこには大いなる誤解がある。ヤフーは現在,グーグルとほぼ大差のない検索サービスを,一般的なネット利用者とリテラシの高いネット利用者の双方に提供している自負はある。しかし,グーグルとの差を明確に示すには,重箱の隅を突くような改善ではなく,検索という行為自体を,一段上のステージに上げるための施策を打ち出す必要がある。それは日本人に向けた最適な検索結果を表示できる検索エンジンであるとも言え,その実現が重要だ。

客観的に見ても一番のコンテンツ保有サイト

検索エンジンを一段上のステージにあげるための施策とは何か。

 検索エンジンの進化を「本=サイト」という考え方で言うと,ディレクトリ検索で本を探す流れから,ロボット検索でページを探す流れが主流になってきた。しかし,あくまでロボット検索は「知りたい何かを探す」という本質的な検索行為における目的を満たすための手段の一つに過ぎない。にもかかわらず,ロボット検索が主流の流れから一段上の検索手段が提示されていない。

 私の考える一段上の検索は,ページではなく,情報そのもの,つまり問いに対する最適なコンテンツを表示するものだ。そのコンテンツを一番多く持っているサイトがどこかと考えると,それは客観的に見てもヤフーだろう。であれば,検索とコンテンツをうまくつなげれば,利用者が欲しい情報をより多く検索窓から直接表示できるサービスを提供できる。

具体的にはどういうことか。

 ヤフーの検索窓は各ジャンルごとなどに数百個ある。各ジャンルのトップページはそれぞれ,当該ジャンルの利用者数でほとんど1~3位を誇る有力サイト。そこで表示する情報を1つの検索窓からでも表示できれば,利用者にとってはわざわざ各ジャンルのトップページを訪れる必要がなく,使いやすい。

 例えば,これまでは「阪神」とヤフーのトップページで検索すると,阪神のホームページを検索結果の第一候補に表示していた。しかし,検索する人は前日の試合結果や今日の試合開始時間,試合中であればスコアボードを見たいはず。そのため,「Yahoo!スポーツ」の情報と連動し,「阪神」と検索したら,検索結果の第一候補に前日の試合結果やスコアボードを表示するようにした。

 こういう事例を急速に増やすことで,ヤフーの検索は大きく変わる。どこから手がけていくかの明確な基準はないが,スピード感を最重要視し,できるところから順次行っていく。「ヤフーの検索エンジンは変わったね」と思ってもらえるまでの改善を,今年度中にはやりたい。