資生堂は2008年9月、男性化粧品「uno」のプロモーションサイト「OJ360 つかもうぜ!オダギリ・ボール」を開設した。テレビでは、俳優のオダギリジョーさんが資生堂に就職したという設定のCM6本を放送したが、WebではCM55本が見られる。ただし、見るためには、オダギリさんが働くオフィスを360度カメラで撮影した映像から、「オダギリ・ボール」をゲットする必要がある。そのユニークなシカケはブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも話題になった。
その狙いや成果を資生堂の宣伝制作部デザイン制作室クリエイティブディレクターの山本コージ氏に聞いた。
今回のプロモーションの内容の概要は。
「オダギリジョーさんが資生堂に就職」という切り口の「フェイクドキュメンタリー」を目指した。彼が資生堂に就職したということだけでも、ターゲット層の心をぐっとつかめるのではないかという発想だ。
実は人事部と交渉して、もう少しで本当に入社に至るところだった。本当に入社した事実があれば、「どうせCM」とはならず強いクチコミになると思っていたので、少し残念だった。
unoのターゲット層(若い男性)は、商品の特徴を説明するような広告にあまり関心を持たない。地上波では企業の価値を優先して「髪が決まる」という商品特徴を盛り込んだものを流したが、Webサイトではより面白いものを見られるようにした。
サイトでは、オダギリさんが本当に仕事している様子を360度カメラで見られる。シーンは60種類ぐらい用意して、時間帯によって変わるようにした。夜中見に行ったら真っ暗だし、(映像が映るオフィス内に)時計もあるがリアルな時間で動いている。
そういった細部にこだわりつつ、ある人が「夜中行ったら真っ暗で何もない」と言ったら、誰かが「いやいや、昼間はオダギリがいるよ」と返して広がる。そんな狙いがあった。
さらに、広告が55種類もあるのになかなか見られないという“ストレス”を作った。男は収集癖があるので、全部見るために、二度、三度にわたって来るだろうと考えた。本当はそのストレスがあるうちに一挙にテレビで公開したかったが、実現できなかった。
オダギリジョーさんが働いている映像はどれくらいかけて撮影したのか。
丸1日かけた。席に着いてから離れるまで大体5分ぐらい。オダギリさんに、「今回はレタリングしましょう」という程度のテーマを伝えると、うまく演じてしまう。絡む人間を設定したり、お約束を散りばめたりして、Webを見に来た人が「本当にいる!」というふうに思ってもらいたかった。日を変えて来たら服装が替わったり、違うことをやったりしている。サイトへ来た人への「おもてなし」として、ちょっとでも「すげぇ」と思ってもらいたい。
360度映像のいろいろなシーンに新しいCMを見るための「オダギリ・ボール」を用意しているが、全部集めるのはなかなか難しい。予想していた面もあるが、こうしたストレスを与えるとコミュニティができる。「mixi」の中では、あるキーを押すとオダギリ・ボールが発見できる裏技を見つけた人がおり「神」と呼ばれている。
それまでは、見つけるのが結構大変で、特に最後の2個はすごく「えぐい」。ブログでは「あれは見つからない」という人もいたほどだ。こういう反応はだいたい予想通り。誰かが教えて広がっていくのも予想していた。ただ、プログラミングしている人間は、この今回の裏技を仕込んだかというとそうではなく、こんなに簡単に見破られてしまうとは…という面もある。