米調査会社フォレスター・リサーチ ジョナサン・ブラウン シニア・アナリスト

 IT(情報技術)とマーケティング分野の米調査会社フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏は今年8月と9月、「Thirteen Obstacles To Persona Success(ペルソナ導入を阻害する13の要因)」、「Design Persona Best Practices From Japan(日本におけるデザインペルソナのベストプラクティス)」と題した、マーケティング手法「ペルソナ」に関連する英文リポートを相次いで発表した。定量的・定性的なデータを基に架空の顧客像を構築するペルソナを、マーケティングに生かす企業は少しずつ増えている。こうした企業を調査してきたブラウン氏は「日本企業にはペルソナの構築・利用のプロセスで遊び心が足りない」と指摘する。

(聞き手は上木貴博=日経情報ストラテジー)

相次いでペルソナ関連のリポートを発表されました。執筆の狙いを教えてください。

ブラウン:ペルソナは2年前には日本でほとんど知られていませんでした。短期間で多くの企業が興味を持ち、導入するようになりました。理由としては2つの企業側の事情が考えられます。1つは、CRMシステムなどに頼ったマーケティングでとらえられる顧客像が非常に漠然としていたことです。もう1つは、営業や開発、宣伝、コールセンターといった様々な部署が異なる顧客像を持っていたことです。

 こうした問題は10年前からあったかもしれませんが、ペルソナというソリューションが提示されたことで顕在化しました。ペルソナは「hidden need(隠れた需要)」だったのでしょう。

 ただし、日本国内でたくさんの活用事例を調査してきましたが、完璧といえるものはありませんでした。まだまだ発展途上といえるでしょう。そこで、ペルソナ・マーケティングを実践するうえでの障害や優れた事例を紹介しようと思ったわけです。

米国と日本でのペルソナの実践状況にはどのような違いがあるのでしょうか。

 米国では金融やソフトウェア関連の企業が早くから取り組み、ほかの業種が続きました。一方、日本では初めから、製造業や教育機関、官庁など幅広い分野で活用が進んでいます。

 ペルソナは業種に問わず応用できるものです。例えば、サービス業では製造業と違って特許で保護することが難しいので、競合企業に強みを真似られやすい。ならば、より深い感動を生む「experience(体験)」を与えるしかありません。それには担当者が顧客の体験を想像しやすくなるペルソナが有効なのです。製造業でも基本的な性能や品質が優れていることはもはや当たり前と思われています。ブランドやユニバーサルデザインといったより深い価値が必要で、それにはやはりペルソナの活用が重要でしょう。

「Thirteen Obstacles To Persona Success」はペルソナ構築・実践までの過程を5つにわけて、13のリスク要因を指摘されています。やはり成果につながるペルソナプロジェクトは難しいものですか。

 ペルソナの構築は、ゴルフのスイングでいえばインパクトの瞬間です。実は、該当する商品やサービスにかかわる部署に協力してもらうための事前の根回しや、完成したペルソナの周知徹底が大切なのです。前後を含めたフォーム全体がしっかりしていなければ、ただ作っただけで終わるでしょう。

 日本の企業は、苦労して作ったペルソナを企業内で認知してもらうためのツールや仕掛け作りが地味で、遊び心が足りない気がします。米国のある企業は舞台俳優を雇ってペルソナを演じさせたり、ペルソナが住む部屋を社内に作ったりするところもあります。

 そこまでするとコストはかかりますが、遊び心がないとペルソナに関する情報も硬い資料で終わります。読んだステークホルダーの頭にイメージを残してもらわないと。雑誌と同じでしょう。1回読んだら捨てられるのではなく、いつまでも取っておきたいツールでなければ組織に定着しません。

「Design Persona Best Practices From Japan」では4つの企業・組織が作ったペルソナを紹介されていますね。

 横浜市役所富士通などを取り上げ、登場する企業の規模や業種に幅を持たせました。ウェブサイト構築だけでなくブランドマネジメントに活用している事例も盛り込んでいます。先ほど日本国内にまだ完璧なペルソナはないと言いましたが、それぞれに優れた点があるので参考にしてもらえればと思います。

 ペルソナは顧客を中心にして組織やビジネスを考える文化を醸成するものです。ペルソナ自体は紙に書かれた小さなツールに過ぎませんが、新しい大きな企業文化を生む可能性を持っています。正しいステップを踏んで導入してもらいたいですね。