本誌が実施した「e都市ランキング 2008」で第1位となった東京都荒川区。区長の西川太一郎氏に、区政におけるITの位置づけやIT投資の考え方、力を入れている施策との関連などについて聞いた。

e都市ランキング第1位・東京都荒川区の西川太一郎区長。
(写真:栗原 克己)
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荒川区では「幸福実感都市あらかわ」を将来像として掲げています。これを実現するためにITをどのように位置づけていますか。

西川 区長就任(2004年11月)以来、私はずっと「区政は区民を幸せにするシステムである」というドメイン(事業領域)を掲げてきました。それを実現するためには、いろいろな方法があると思いますが、今の時代はITの活用をきちんと位置づける必要があります。職員には、サービスの速さ、サービスの的確さ、そして、どこからでもアクセスができるようなユビキタス・サービスを、どうやって実現できるかを考えるように言い続けてきました。

 サービスの的確さというのは、いわゆるセグメンテーションをきちんと行って、それぞれの世代に適したサービスを提供するということです。

 私はITに詳しいわけではありませんので、技術的なところは若い人たちに任せますが、「それが本当に行政サービスの進歩につながるのか」という勘所は分かります。ですから、(ITに関する予算について)認めるべき部分はしっかり認めてきたつもりです。

 それと、荒川区では売り込みや協力提案を拒まないことにしています。採用できるかどうかは別として、ITによる行政サービスについての提案はたくさんあります。こうした外部からの提案を聞いていく姿勢を、私たちは持っているつもりです。

実際に、そのような提案が生かされた事例はありますか。

西川 例えば、JC(青年会議所)が自分たちのところで少し古くなったLANの機器を区内のある学校に提供してくれたことがありました。それだけでなく、電気屋さんを手配して配線工事までしてくれて区の校内LANがスタートしたのです。

 ところが、1校だけでは校内LANの効果だけしかありません。そこでもう1校LANを整備して、情報交換のネットワークを作ったところ、すごく効果があったんです。そんなことから(学校のLAN敷設が)一気に広まったんです。

 このように、いろいろな方々の行政に対するご協力を受け入れてきたことも、e都市ランキングの評価につながっているのではないかなと思っています。

荒川区では、教室へのパソコン配備、ネットワーク整備、教員1人1台パソコンなど、学校のIT化が進んでいます。国立天文台ハワイ観測所とテレビ会議システムでつないだ授業も話題になりました。

西川 学校だけではありません。例えば今度行う「荒川リバーサイドマラソン」というマラソン大会では、参加する子供たちにはI Cタグを無料で付けるんです。そうすると通過地点ごとに記録がきちんと読めます。大人は有料ですが、子供は無料にして、技術というものがいかに役に立つものであるかを体感してもらえればと思っています。

 ただ、教育分野はIT化ばかりに力を入れるのではなく、本を読ませたり、字を書かせたり、絵を描かせたりといった、子供の感性やセンスを磨く道具立ての設備にも投資をしなくてはいけないと考えています。例えば、今期だけでも商店街にミニ図書館を3カ所作る予定です。これは蔵書数が4000~5000冊の本当に小さな図書館ですが、いわゆるママチャリが止められるような駐輪場を作って、買い物のついでにちょっと本が借りられるような図書館です。

今回のe都市ランキングでは、「情報セキュリティ」分野のポイントも高かったですね。

西川 私は防衛政務次官だったことがありますので、情報セキュリティの考え方は、その時にいち早く勉強しました。従って、個人情報保護や機密保持などの対策の必要性についての理解力は、以前からあったと思っています。

 基礎がしっかりしていないと、高い建物は作れません。しかし、基礎の部分にお金を掛けることについては、区民や議会から理解されにくい部分もあります。前任の情報部門の課長には「それ(セキュリティの重要性)を議会や住民に上手に説明できなければいけない。課長にはそうした能力が要求される」という話をした覚えがあります。ですから、情報セキュリティについては相当な予算要求もありましたが、それにはきちんと応えました。この基礎が今に生きていると思っています。