写真●上武大学大学院の教授である池田信夫氏
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 B-CAS社の罪は「退場」では消えない---。特にネット上で批判の声が多いデジタル放送の限定受信システム「B-CAS」。ITproに当事者であるビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)の浦崎宏社長,NHK担当者の主張を掲載(関連記事1関連記事2)したところ,経済学者でアルファブロガーの池田信夫氏が,自身のブログで痛烈な批判を展開するエントリーを複数掲載(池田氏のブログ記事1池田氏のブログ記事2池田氏のブログ記事3)した。元NHKでB-CAS問題に詳しい池田氏に聞いた。

(聞き手は島田 昇=ITpro,高瀬 徹朗=放送ジャーナリスト)

コピー制御自体がナンセンス

B-CASは何が問題なのですか。

 デジタル放送対応端末はこれまでに4400万台普及しており,そのすべてにB-CASカードが同梱されています。これは何の法的根拠もなく,一民間企業が独占的かつ排他的な状況を作り上げてしまったことを意味します。はっきりいって,このすべてが独占禁止法違反。これまでに売り上げた数百億円をすべて消費者に返還すべきだと考えます。

現在,総務省の情報通信審議会(情通審)でもB-CASの在り方が問われています。

 B-CAS社自体については,放送業界の人間の大半が「無用の長物」であることを理解しています。一方,「電波産業界(ARIB)規格に反する端末にはB-CASカードを配らない」というルールが違法端末製造生産の歯止めとなっていた面もあり,B-CAS廃止によってその歯止めがかからなくなるという事態が想定されます。そこが情通審において難しい議論となっている部分です。

 B-CASをなくした上で秩序を守る方法論としては,たとえば法律なり総務省省令などで規制するやり方が考えられます。しかし,海外の例を見ても,あらゆる端末に暗号解読の仕組みを法的に取り入れさせるのは難しい。また,総務省が強権を振るうことに,関連する他省庁から反発の声もあると聞いています。

 B-CAS社存続の是非については議論の余地がありませんが,ことコピー制御に関しては独占禁止法においても適用除外(特許管理事業にあたる可能性がある)となる公算があり,情通審でも議論の分かれる部分と考えられます。

コピー制御がないと,テレビ番組がネット上に氾濫し,テレビ局の利益を著しく損なうとの指摘もあります。

 不特定多数の視聴者へ無料で提供するテレビ番組において,コピー制御をかけること自体がナンセンス。先のITproのインタビューをみると,「BSデジタル放送開局特番における某アーティストライブ中継の海賊版が導入の決め手となった」との記述がありますが,それはレアケースでしょう。無料で放送しているものを有料で販売できるケースなんて,ほとんどない。実質的な被害者など存在していないのです。

 B-CASによるコピー制御はデジタル放送開始時点(2000年12月のBSデジタル放送)から導入されたものではなく,開始後に検討を始めて導入したものです。権利者団体などへの相談もなく,放送事業者が自身で判断して方法論を決めたと聞いています。

 こうしたことからは,例えば某芸能事務所から「著作権を侵害されている」などの反発が発生する前に手を打っておこうという,事なかれ主義が伺えます。必要以上にリスクを回避しようとすることで,消費者に不都合が発生する官製不況と同じ仕組みですね。