日本で一番使われている組込みOS「トロン」。その知識や技術力を測るための「トロン技術者認定試験」は,これまでT-Engineフォーラムとトロン協会の会員向けだけに行われていたが,いよいよ2008年9月28日から一般向けの試験が始まる。それに先立ち,トロンの生みの親であり,この試験の創設者である坂村健氏(東京大学教授,T-Engineフォーラム会長)に,試験に込める思いや海外展開について語ってもらった。(聞き手は,中西 佳世子=日経BPソフトプレス,中條 将典=ITpro)



今回「トロン技術者認定試験」の受験者枠を一般にまで広げました。この試験の狙いについて教えてください。

東京大学教授,T-Engineフォーラム会長 坂村健氏
東京大学教授,T-Engineフォーラム会長 坂村健氏

 この試験の導入によって私は,組込み業界で働く人たちにインセンティブを与え,業界全体を良くしたいと考えています。組込み開発者はもっと報われなければいけないと思います。

 情報系の業界では,IBMやマイクロソフトによって,ソフトウエアにお金を払うビジネスモデルを確立できました。ところが組込み業界では不幸なことに,ソフトウエアはハードウエアの“おまけ”になってしまいました。つまりハードウエアをたくさん買ってもらえるなら,そのためのソフトウエアはタダ同然の扱い。このビジネスモデルじゃ,組込みソフトウエアを作っている者はたまりません。

 そのうえ,組込みソフトウエアのプログラミングには高度なスキルが必要なんです。組込みシステムはコストの問題があるので,CPUの性能もメモリ量も限界を追求します。だから,タスクのプライオリティやメモリの解放なども,開発者が常に意識しなければ動きません。メモリもプロセスもいくらでも手に入るという前提でしか仕事していない情報系のプログラマではまず手が出ないでしょう。そのくせ,情報系のソフトウエアは一般にステップ数や人月でお金を計算しますから,冗漫なプログラムでステップ数が多くて開発期間が長いほうが儲かります。組込み系では,短時間でスリムなプログラムが書くことを求められる一方で,情報系と同じコスト算定基準が適用されるので,良心的で有能なソフトハウスほど損をしてしまうのです。