写真●NTTデータの榎本副社長(右)と独BMWのフリードリッヒ・アイヒナー取締役(左)、サークエントのペーター・ブロイヒアーCEO(中)
写真●NTTデータの榎本副社長(右)と独BMWのフリードリッヒ・アイヒナー取締役(左)、サークエントのペーター・ブロイヒアーCEO(中)
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 8月1日に独BMWが98%出資するシステム子会社、独サークエントの発行済み株式の72.9%を取得すると発表したNTTデータ。売上高480億円(2007年度)のサークエントを300~350億円(推定)で買収することで、09年度に海外売上高を1000億円の大台に乗せるという中期経営計画の達成に大きく前進した。NTTデータは、なぜBMW子会社を選んだのか。今後、さらなる買収に踏み込むのか。買収先の選定や現地幹部との交渉を担当する榎本隆副社長に、今回の買収の経緯やインパクト、今後の見通しを聞いた。(聞き手は大和田 尚孝=日経コンピュータ)

NTTデータにとって、サークエントの最大の魅力は何でしょう。

 二つあります。一つはBMWから年間100億円以上の仕事を請け負っているということです。自動車会社から100億円規模の受注を得た経験は国内でもない。NTTデータは自動車業界での実績が少ないのです。

 もう一つは、海外事業の拡大につながるという点です。サークエントの07年12月期の売上高は2億8600万ユーロ(約480億円)。この1月に約200億円で買収した独アイテリジェンスを抜いて過去最大規模です。480億円のうちBMW向けは25%で、残る75%はエネルギー、金融、通信といった分野の企業です。

 NTTデータの海外売上高は昨年度で183億円しかありません。これを今年度に3倍以上の600億円まで伸ばす目標を掲げています。この計画は、サークエントの買収でクリアできます。09年度に海外売上高1000億円という3カ年の中期経営計画も達成できるとみています。

 自動車業界と海外事業という二つの弱点分野を一気に克服できるというのが大きな魅力でした。

買収交渉はスムーズに進みましたか。

 当社を含めて3社のコンペになりました。我々が提示した条件は、まず買収後もサークエントの経営陣にはそのまま残ってもらいたいということです。出資という形で資金面で経営支援はするが、基本的に経営は今までどおり任せるという意思表示です。現地のマーケットを良く知り、顧客とのつながりを持つ現在の経営陣が主人公であり続けるという考え方です。

 そうした方針がサークエントの経営陣に評価され、彼らがBMWに「NTTデータと組みたい」と表明してくれました。当社は70~80%の出資を提案しましたが、ほかの2社の提案は100%出資だったようです。

現地任せで買収後の経営はうまくいきますか。

 アナリストからも「甘い」「買収効果が出ない」と批判されます。ですが、無理やり統合してもうまくいきません。システム開発会社にとって最大の資産は人材です。力ずくで統治して現地の優秀な従業員が流出したら買収した意味がなくなります。当社の買収戦略は、あくまで資本提携を通じたパートナシップを築くこと。マージ(統合)ではありません。

 05年11月に買収した米リビアグループが成功例です。いまお話した方法で臨んだ結果、この3年間で売り上げが倍増しまた。パートナシップ方式の手ごたえを感じています。

サークエントへの出資比率が72.9%になったのはなぜですか。

 BMWとサークエントの関係を維持するために、当社からBMWに20~30%の出資を継続してもらいたいとお願いしました。ドイツでは、重要な経営案件に拒否権を行使できるのが25%。それを基準に25.1%との出資比率をBMWが提示してきました。あとはサークエント自身が2%の株式を保有します。

ドイツでの大型買収が2件続きましたが、次はどこが狙い目ですか。

 買収は基本的にフリーキャッシュフローの範囲に収める考えです。年間400~500億円といったところです。今年は今回の案件でぎりぎりでしょう。ただ、買収すれば終わりでなく、重要なのは買収後に増収などの結果を残すことです。あせらずじっくり進めます。

 地域的には、ご指摘のようにドイツがアイテリジェンスとサークエントの買収で800億円の事業規模になりました。一方で米国はまだ200億円規模。中国と東南アジアは30~50億円しかありません。IT市場規模に照らし合わせると、米国やシンガポールの事業を拡大しなければならないと思っています。

まだまだ海外は「穴」だらけですね。

 穴が見えてきたのは大きな前進です。以前は穴どころか、足がかりすらなかったわけですから。もちろん穴をふさいでいくのは大変ですが。

BMWはサークエントとNTTデータにどのような期待をしていますか。

 グローバルでシステム関連のサポートをしてもらいたいということです。多くのグローバル企業と同様に、BMWも開発や運用、保守を委託するITベンダーを世界規模で絞り込みたいとの要望が強いようです。ITのコスト効率の向上と均質なサービスを得るのが狙いです。

 BMWは現在、100社以上のITベンダーと付き合っているようです。これを10社程度にメインを絞り込んで、その下にサブベンダーをぶら下げる形にしたいとのことです。サークエントは10社リスト入りを目指します。

 先ほど申し上げたようにサークエントはBWMと年間100億円以上の取引があります。ただし、これはBMWのIT投資のほんの一部に過ぎません。具体的には、サークエントが手がけているのはドイツと西欧の生産管理系のシステムが中心です。ところがBMWの生産拠点は米国、東欧、中国、南ア、南米と世界中にあります。販売拠点は日本などさらに広範囲に及びます。

 サークエント単独ではカバーできなかった米国やアジアなどのBMWの仕事をNTTデータがグループとして請け負うことができれば、極めて大きなビジネスチャンスになります。実績を積めば国内の自動車会社から受注を増やせる可能性も出てきます。BMWのグローバルソーシングの受け皿になるのが目標です。