守り過ぎたことが「うさん臭い会社」の印象与えた

無料放送の性格から,信号を暗号化すること自体に抵抗はなかったのですか。

土屋氏 物理的手段を介してまでコピー制御をかけることは大きな決断でした。判断にあたり,100回コピーしたメディアを経営者に見てもらうなど,現場から経営側に訴えかけて実現に至りました。

黒田氏 悪意を持たない一般視聴者が簡単にハイビジョン画質のコピーを作れてしまうこと。これが実施における重要な判断材料です。

海外の状況と比べて,放送信号スクランブルは類のない強めの制御方法と言われています。

土屋氏 ハイビジョン画質の地上波無料放送がこれだけ充実しているのは日本だけであり,単純な比較はできないと考えられます。

限定受信にコピー制御が加わり,さらに事業規模が大きくなったことで公益性は強まったと思いますが。

土屋氏 基本的には,株式会社として運営しても不都合はなかった,という判断です。たとえばBS放送の管理と送信を担当するB-SATも株式会社。3000~4000万台の受信機を対象としたパブリックな事業ですが,コストセンターとして運営する限り,特に不都合なく運営されています。メリットという面から,B-CASを社団法人にするなど組織形態を変更する理由が見当たりません。もちろん,新たなコンテンツ保護策(新RMP,関連記事)が断念されたことで将来にわたる重要性が増したことを踏まえて,在り方に関する議論はしています。

なぜ新RMPは断念したのですか。

土屋氏 コストメリットや運用面でのニーズが放送事業者・受信機メーカー間で合致することができなかったことが要因です。特にコスト面では,B-CASよりはるかに安くすることが難しかったと。また時間的制約があることを考えると,やはりB-CAS方式で続行せざるを得ないということになりました。

今後も採用される以上,B-CAS社の透明性をより高めていくべきではないですか。

土屋氏 暗号キーを発行・運営する会社であり,本来は株主さえも明らかにすべきではない,という考えがありました。しかし,あまりに守り過ぎたため,一般視聴者をはじめとする国民の皆様に「うさん臭い会社」という印象を与えてしまった。今後は透明化に努めるよう,B-CAS社ともども心を改めています。